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モニター越しの見学
昼食はどうやら各自好きなで取るらしい。
早めに食堂へ行って、一人分の食事を確保。
処置室へ持ち込み、初めてゆっくりと食事がとれた。
「ふぅ……」
一息ついて、周りを見渡す。
どう見ても保健室だよなぁ……。
常備薬の中から胃薬をもらって飲んだ。
キャンプに行った時は痛がる怪我人の手足押さえたり、銃で撃たれたら消毒液ぶっかけてその場で弾取り出したり、そりゃあ修羅場だったのにな。
それよりもこの砦にいるプレッシャーの方が重いってどうなんだよ。
そういうつもりでここに来たんだっけ?
デスクに置かれたPCの横にモニターがある。
電源を入れると、あちこちの設置されたカメラの映像が映った。
この処置室も写っている。
その中から演習場という名の、砦正面をアップにした。
まだ演習時間には早い。
人一人居ない。
俺自身のバイタルチェックでもするか。
既にどこか具合が悪くなってそうだよ。
デスクから離れようとした時に、クロウが小さくカタカタと揺れた。
え、敵襲?
……の時よりも揺れは小さいような?
モニターを見る。
と、砦の前にライフルを持ったジンノ大佐が大きな板を中央に移動させてきた。
だいぶ大きい、ジンノ大佐は反対側からは全く見えない。
それが簡易的なレールに乗って動いていて、逆方向からは見えない。
なんだコレは。
手元のクロウが何度か光を発すると、突然の発砲音が轟いた。
何発もの弾が板を撃ち抜く。
発砲は板の真ん中、高さでは人の頭辺り一点を数発の弾丸が貫通していた。
これ、多分隠れている兵士達の何人かが一斉に攻撃してるよな。
演習、て、一体どんなものなのか。
この時点であまり甘いものでないものを感じた。
また手元のクロウが点滅を点灯を始めた。
と、すぐに右から少し内側に寄った辺りの板の部分が破壊された。
突然爆破されるように板に穴が空く。
このクロウの暗号でどの箱に攻撃するか指示しているって事だろうか?
にしても、光ると同時に発砲してるから指示をちゃんと見ているのかさえ謎だ。
そもそも、指示があるとは言え、ジンノ大佐に当たったらどうするんだよ!
10箇所程集中発砲がされた後、ジンノ大佐はボロボロになった板を倒し、着ていたコート内からハンドガンを取り出した。
と、同時に離れた木に一発撃った。
そして同時に同じ場所に何発もの銃撃が同じ場所に撃ち込まれる。
その間、誰も姿を見せない。
当たり前か、亡霊達が姿を見せたら亡霊でなくなる。
次に行われたのは、ジンノ大佐が持ってきた箱からいくつか空気の入れていない風船を出した。
風船の色は様々で、それにエアーポンプで空気を入れて紐を付ける。
その風船を紐を手元にたぐり寄せていくつもの高さに調節し、まとめて持つと歩き出した。
歩きながら、ライフルで自然にトントンと地面を叩くと、赤い風船だけが破裂した。
どこかから発砲があったのだろう。
次に少し違うリズムで地面を叩くと、今度は白い風船だけが破裂した。
歩く方向を急に転換すると銃で叩く、多分、その感覚はちょととだけ変えてある、と思う。
そして持っていた風船を自分の顔と同じ位置に下ろし、歩きながら風に揺れる風船は次々と割れていった。
いきなり全部割れるのではなく、恐らく規則性に則って確実に一つずつ。
また風船が追加され、ジンノ大佐が方向転換する度にに特定の色の風船だけが次々と破壊されていく。
当のジンノ大佐は表情を変えず、ただただ風船を持ち、位置を変え、目の前で割れる風船がまるで見えないようにただただ普通に歩いた。
ちょと弾道が外れたら、ジンノ大佐に当たるだろ!
恐怖で汗が滲んでくる。
と共に遠く昔見た事があるような感覚が湧いてくるのが分かった。
……。
これ、何かに似てる。
手品? では無いか。
小さい頃の記憶を掘り返して、何とか近い思い出をひっぱりだした。
これは、サーカスに似ている。
あの、箱に入れられた美女にナイフ投げの達人が躊躇なくナイフを投げ、開けてみると美女のギリギリの場所にナイフが刺さっている、あの感覚。
て事は、ここの人達はサーカス集団なのか……!?
いや、そんな事は無いな。
何適当な事思っているんだ俺。
その後も、ジンノ大佐がいくつもズタ袋を投げ、その中から的確に同じものだけを狙ったり、木の板をいくつも置いて、その間をジンノ大佐が通り抜け、これまた的確に同じ標的だけを攻撃するという、まさにサーカスのような演習が続けられた。
時間にしてどれくらいだろう。
多分、数時間も経っていない。
ジンノ大佐は大きく右手を挙げて、そのまま砦の中に入っていった。
また次のアトラクションの準備に入ったのだろうか。
アトラクション、不意に思った事だけど、正にそんな感覚だった。
いつの間にか今までに無い高揚感で息が上がっていた。
「マリアー!!」
「っ!!!」
いきなりのタカヤの訪問にびっくりして椅子から転げ落ちそうになる。
「ちょっと擦りむいちゃってさ、消毒だけでもしてくれない?」
「あ、ああ、そうか、どうぞ」
診察用の椅子に座るタカヤの腕を見ると、結構な血が出ていた。
洗い流し、傷口を見るとそれほど大きく切ってはいないようだ。
「切り傷ですが、早く止血する為にすこし圧迫しますね」
消毒し、ガーゼを当てて強めにテープを巻く。
「おお、本物のお医者さんみたい」
「一応、本物のお医者さんなんだけど……」
「よっしゃサンキュー、じゃーまたな!」
「また……」
何て言うかアレだな、運動部のマネージャーみたいな気分だな。
クロウがカタカタと揺れ、また演習が始まる。
今回はよく見ておこう。
主にクロウの方を。
本当はどちらも見ながら判断がつけばいいのは分かっているけども、そもそもクロウの信号にどういうものがあるのかほとんど分からない。
もちろん、マニュアルなんてものは無いんだろうな。
毎日変わる暗号でさえメモ禁止。
司令塔から来る信号を出すクロウのマニュアルなんてあるはずが無い。
モニターを見る。
縦にいくつもの的が並んでいる木の中、ジンノ大佐が打った的だけに何発もの銃撃が一斉に入る。
……すげぇ。
いや、こんな事してるんじゃなくて。
とにかく俺はクロウを見た。
絶えず白い光がチカチカと光っている。
元々薄暗い部屋ではあったけれど、分かりやすくする為に手で覆ってクロウの周りを暗くした。
チカッ、チカッと二回光って、一度暗闇へ。
そのあとまたチカッ、チカッと光って暗闇へ。
そのセットは1秒程。
なるほど、1秒で1暗号を伝えてる訳だ。
暗くなる前の2/3秒光り続けている点が信号って事か。
確かヒロは10個あれば組み合わせできると言っていたから、二桁最大99。
0も含めるのであれば、光は全部で10個か?
まずは数えてみなければ。
光が点滅、点灯する場所を覚え、何カ所あるか数える。
微妙にズレているだけの場所もあって、見づらい事この上ない。
途中、手で光を遮るのは効率が悪いと思い、黒い紙でクロウを覆うドームを作ってのぞき込むようにした。
これで少し見やすくなった。
数えて分かったのは、光っている場所は、13カ所だった。
マジかよ。
もしかしてフェイクも入ってるのか?
分かんねぇよ。
そう思いながらペンを手に取り、光の位置を描き写す。
もう、メモ取るななんて言われても無理。
光る場所のパターンが何通りあるのか。
一秒で出てくる暗号で、暗号の情報はは一つなのか二つなのか。
くっそ、分からん!
ちゃんと教えてくれよジンノ大佐!!
その後数時間、どれかがフェイク説、13進法説を仮定してみたり。
点を点を結んだ図形を考えてみたり、角度を変えてみたり。
とにかくいろいろ考えた。
どれも当てはまらない。
頭から湯気が出そうな程考えてみたけれど、結局その日の演習が終わるまで解読できないままだった。
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