砦の日々

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砦の日々

 それから演習の度にモニターとクロウを見比べて暗号を解読していった。  解読などという難解なものではなく、意外と簡単だった。  確かに光は点滅と点灯を繰り返すが、最初の点灯は色の種類、二回目の点灯は色に割り当てられる作戦の攻撃方法だった。  例えば、最初の点灯がオレンジの光、二回目の点灯が3カ所であれば、オレンジが一桁目、二回目の3カ所が二桁目。  さらに二桁目の光りの配列によって攻撃方法も少し変化する。  分かってしまえば簡単な話。  とりあえず、この前作ってしまった失態を取り返すべく、暗号をちゃんと読み取る事に努めた。  努めてはいるか、その暗号を即座に判別できた時には既に攻撃は終わっているという、また次の壁にぶち当たる。  あいつらのフィーリングというのはこの難解な機密機器のクロウさえも上回るってというのか……。  日々悩み、そして発見がある。  俺はこういう解読が嫌いでは無い。  それに、怪我人が少ない事もあり、考える時間は充分にあった。  そして、小隊を組んでいる、ヒロやキラ、タカヤ、それぞれは乱暴な所があるが、必要以上に干渉してこない。  が、相談をすれば快く引き受けてくれる。  本当にいい人達だ。  食事時を除いて。  マメに相談役となってくれるヒロ。  ガキのように傍若無人に振る舞い、それをなぜか許せてしまう雰囲気のタカヤ。  ちょっと気持ち悪いが、みんなを大事に思っているキラ。  他の砦兵もギスギスする事なく、時に喧嘩する事はあっても数分後には笑い合っている。  みんながみんな、いい関係を保っている。  バイタルチェックをしても、誰もがいい数値を出し、健康上には何の問題も無い。  こんなに居心地のいい場所が今まであっただろうか。  ……あったとするならば、父親に憧れ医学を勉強し、母親の愛情を感じながら心が満たされている時、に近いのかもしれない。  思春期の頃に戦争の無い期間が8年だけあった。  俺が幼かった頃、戦争で家を空ける事が多かった二人は、その期間を埋めるように大切に育ててくれた。  友達もいたし、初恋もした。  研究室や医局にいた時の事よりも、幸せだった頃を思い出す事の方が多くなってきた。  こんな穏やかな気持ちでいても、定期的に敵は訪れる。  それさえも俺は焦る事無くモニターを見ている事ができる。  囮のように姿を現すジンノ大佐。  ジンノ大佐へ銃を構えた敵は、その途端に撃たれる。  敵の数によって、それは砦前であったり、砦の上から攻撃をしたり、かなり遠くからの狙撃もあったように思う。  時にジンノ大佐自身が攻撃をすることもあるが、それも複数いる敵に必中。  敵全員を無差別に攻撃するのでは無く、一人ずつ確実に倒していった。  複数の方向から襲撃される為、敵はどこに反撃をするかも分からず、砦にたどり着く前に撤退していく敵も多い。  相変わらずえげつねぇなぁ。  ただ、恐れをなして撤退していく敵を追いかけて止めを指す事はしない。  それはジンノ大佐の意向らしい。  砦兵達の任務は砦を守ること。深追いをして敵を全滅させる事ではないし、それによってこちらの作戦がバレでしまう可能性さえある。  そして、なぜか敵襲のある日、ある時間を大体把握しているし、大型の戦闘機などが姿を現すこともなく、それさえ対策しているらしい。  あの人は本当に慎重な人だと思う。  砦兵の軍医に入隊して、三ヶ月。  その間、敵からの攻撃による負傷者はゼロ。  正確には自分で作る切り傷やら擦り傷やらはしょっちゅうではあったが。  砦兵達は恐ろしいことに、見えないからと普段着だろうが下着姿だろうがライフル一丁で演習も実戦もしやがる。  あと食べ過ぎとか不摂生による疲労でブドウ糖の点滴くらいか。  時に完全にオフの日があり、一日みんなとプレイルームで遊び惚ける事さえある。  学校みたいだなと、よく思う。  こんな事を考えるのはとても許されない事のような気がするけれど。  とても穏やかな気持ちになっていた。  日々の砦兵との騒ぎも慣れ、一緒に笑えるようになっていた。  心の片隅にかつての記憶が消える事は無かったが、充実した日々を過ごせていたように思う。  こんなに遊んで、こんなに笑って過ごせる日々は何年ぶりだろうか。  この時間がずっと続けばいいと、そんな気持ちにもなった。  敵襲があれば、必ず誰かが殺される。  そんな状況の中でこんな考え方は許されるものではない。  それでも救いを求めてしまうのは、まだ俺は何かにすがらずにいられない人間だからだろうか。  ……全く、争いなんて無いに越した事はないのに。  口には出せないが、そんな事を考えていた。
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