特別な日 19

1/1
前へ
/31ページ
次へ

特別な日 19

 魔導が行使されたことに気づき、『炎狼(ファイアウルフ)』が跳びあがった。炎の尾を彗星のように引きながら、ルシカ目掛けて一気に距離を詰める。自分を傷付ける手段をもつ魔法使いを、(まご)う事なく見極めたのだ。  怖ろしい形相がルシカの眼前に迫る……! 「――ルシカ!」  テロンが叫び、クルーガーが跳躍する。  ルシカは素早く腕を前へ突き出し、『力の壁(フォースウォール)』と『完全魔法防御(パーフェクトバリア)』の魔法陣を同時に展開させた。  力の名である『万色の杖』が、魔導士の手のなかでひときわ強い虹色の輝きを放つ。宙に(ひらめ)いた光が空中を駆け(はし)り、物理と魔法双方の壁たる強固な力場を形成する。  ギャウンッ!  魔法の障壁に阻まれ動きを止められた幻獣の体を、テロンの『衝撃波(しょうげきは)』とクルーガーの剣が捉えた。  炎そのものの巨大な体躯が吹き飛ばされ、宙を舞う。  脇腹に傷を付けられた『炎狼(ファイアウルフ)』はくるりと空中で向きを変え、剣の間合いから離れた場所に降り立った。まさに手負いの獣そのものの眼差しで周囲の人間たちを睥睨(へいげい)する。  ウオオオォォォォォォンッ!  喉の奥からこの世ならざる怖ろしい咆哮を轟かせた。周囲の空気がびりびりと震え、兵たちの剣を持つ手が緩み、ルシカの周囲で剣が落ちる音が幾つも聞こえた。傭兵隊長は剣を構えたままであったが、悪態をついたところをみると、すぐに行動できない状態に陥ったらしい。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加