特別な日 21

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特別な日 21

 ルシカの放った光が、幻獣の全身を絡め取る。『送還(センドバック)』――本来幻精界の存在である幻獣を、この現生(げんしょう)界から元の世界へと強制的に送り還す魔法だ。  狼は全身を束縛する魔法に抗い、瞬間、効果を打ち砕いたかにみえた。剣に刺されていた箇所の肉を自ら引き千切ってクルーガーを振り解き、凄まじい勢いで床を蹴って宙に跳びあがる。 「――な」  ルシカは魔法への集中を続けながらも蒼白になった。オレンジ色の瞳に、飛びかかる『炎狼(ファイアウルフ)』の姿が大写しになる。  だがしかし、その牙と爪はルシカに届かなかった。眼をいっぱいに見開いて、ルシカは眼前に割り込んできた青年の体を(おのの)きながら見つめた。 「……テロンッ!」 「――ルシカ、集中を()くな!」  テロンのあげた声に、危ういところでルシカは魔法効果を維持することができた。  ルシカはテロンの視線に励まされ、さらなる魔力(マナ)を魔法陣に注ぎ込こんだ。ついに『送還(センドバック)』は『炎狼(ファイアウルフ)』の抵抗を退(しりぞ)け、その効果を完全なものとした。
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