特別な日 22

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特別な日 22

 『炎狼(ファイアウルフ)』の燃える炎さながらの体躯が透き通り、宙へと(ほど)けるように消えてゆく。幻精界に戻っていくのだ。役目を完遂させた魔法陣が、空中に染みこむように消える。  それを見届けた青年の膝が、ガクリと崩れる。背中と肩に凄まじい火傷と噛み傷を負ったテロンの体を、ルシカは全身で抱き支えた。 「テロン!」 「……ルシカ、よくやった。無事で、よかっ……」 「すぐに……すぐに癒すからね」  ルシカは涙混じりにそう告げると、すぐに腕先で印を切った。白い魔法陣が具現化され、テロンと、その体を抱いているルシカを包み込む。テロンの傷が温かい熱を放ち、溶けるように消えてゆくのを、ルシカも肌で感じ取った。  完全に回復したテロンが立ち直り、立て続けに魔力(マナ)を消費してふらりと倒れかけたルシカをしっかりと逞しい腕で抱き支えた。この上もなく優しい光をたたえた青い瞳が、ルシカを覗き込むようにして目の前にあった。
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