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特別な日 23
「ありがとう、ルシカ」
テロンが腕のなかの少女をしっかりと見つめ、穏やかな眼差しで微笑んだ。ルシカはすべらかな頬を染め、ようやく言葉を紡ぎだした。
「え……ううん、こちらこそ、無事だったのはテロンのおかげだもの」
「ルシカのおかげさ、やはりルシカは頼りになるな」
ルシカは一瞬、ポカンと呆けたような表情になった。その言葉が心にようやく染みこんだルシカが、テロンの衣服を握りしめるようにしてその胸に頬を寄せ、ホッと安堵のため息をつく。テロンは励ますようにそっと腕に力を籠めてくれた。
その光景を眺めていたソバッカが、口髭をたくわえた顔をにっこりと微笑ませた。剣を鞘に収め、口を開く。
「我ら兵たちの出番はありませんでしたな。いやはや、さすがは宮廷魔導士ルシカ殿じゃの。しかし――幻獣相手に何の手段も講じておられなかったとは、無茶にもほどがありますぞ」
言葉の後半を向けられたクルーガーが、後頭部を掻きながら苦笑した。ふと真面目な顔になり、手にしていた剣の刀身に残っている魔導の輝きを見つめながら、つぶやくように言った。
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