特別な日 25

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特別な日 25

「あぁ、何だか今日はすんごい疲れたぁ……おなか空いた」  ルシカはふらふらとした足運びで図書館棟まで戻る回廊を歩いていた。すでに太陽は西の彼方へ沈み去り、黒の絹布に銀の粉を振り()いたかのごとき満天(まんてん)の星空が、『千年王宮』の上空をひんやりと静寂のままに覆っていた。 「でもこれから、遅くなっちゃったぶん頑張らないと――」  深夜すぎまでの作業を覚悟し、大きなため息とともに重い扉を押し開いたルシカは、驚きのあまり眼と口をポカンと開いたまま動きを止めた。 「どうしたの、みんな……?」  やっとのことで言葉を(つむ)ぐ。  図書館棟の扉の向こうには、ずらりと並んだ笑顔があったのだ。テロンとクルーガーの双子の王子をはじめ、騎士隊長や傭兵隊長、侍女頭のメルエッタや文官たちまでもが集まっていたのである。 「誕生日おめでとう、ルシカ!」 「おめでとうルシカ!」  テロンとクルーガーが、そっくり同じ声を揃えた。クルーガーは悪戯っぽい微笑みを浮かべ、片眼をぱちんと閉じて寄こした。テロンはルシカと眼が合うと僅かに視線を逸らしながら空いた片手で頬を掻きつつ、耳まで赤く染まった。
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