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特別な日 26
ふたりの背後から進み出た厨房頭のマルムが、赤い小粒の果物を盛ったタルトを捧げ持ち、にこにこと笑いながら懐かしそうに笑った。
「ルシカさま、憶えていらっしゃいますか? 幼き頃にお好きでございましたピナアの実を、香ばしく焼き上げたタルトにたくさん盛り付けてみたんです。どうぞ召し上がってください」
「ここをあなたが離れたときには、こんなにちいさな女の子でしたのに。本当に……美しく、大きく立派になられて」
いつもは厳しい面持ちのメルエッタまでもが、目の端をきらりと光らせながらにこにこと微笑んでいる。
「え……えと、あれ? これはどういう……」
「ん? ……もしかしてルシカ、自分の誕生日を忘れていたのか?」
クルーガーの言葉に、ルシカは「あっ」と声をあげた。やっとのことで今日という日――今から十七年前に、自分が生まれたことを思い出したのだ。あまりに忙しい日々を送っていたので、自分の誕生日などという個人的なイベントを、すっかり忘れ果ててしまっていたのである。
「ルシカ――これを受け取ってくれないか」
テロンが気恥ずかしそうに言ってルシカに差し出したのは、キラリと輝くひと粒のまるい見事な宝石だった。黄金で細工が施され、耳につける宝飾品に加工されている。おそらく王宮で召し抱えている細工師の手による逸品なのだろう。
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