特別な日 28

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特別な日 28

 ルシカはやっとのことで言葉を喉から押し出した。友人からの心尽くしの贈り物。ルシカはそっと目もとを(ぬぐ)った。自分抜きでふたりが出掛けていったのは、この為だったのだ。 「ほっほっほ。粋なことをするのぅ」  呑気そのものの飄々とした声は、聞き違いようもなかった。ルシカは勢い良く背後の扉を振り返った。 「お、おじいちゃん!」 「ルーファス殿、クルーガー殿とテロン殿に『転移の指輪』を貸し与え、魔法陣を自由に発動させることができるようにした共犯者はこの(わし)じゃよ。面倒じゃったのでな、『獣谷』の入り口に直接魔法陣を設置してきたのじゃ」  事もなげに告白する『時空間』の大魔導士ヴァンドーナに、王子たちのお目付け役でもある騎士隊長ルーファスはずっしりと疲れた表情になった。どの国家にも属さぬ、大陸一の実力者――ソサリア王国の良き相談役である大恩人を責めるわけにもいかず、せめてもの恨みとばかりに、力いっぱいの不満を視線に篭めている。
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