特別な日 3

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特別な日 3

 寝不足の目もとに指をあて、深く瞑目してから瞳をあげると、窓の外の空が先ほどより明るんでいた。そばに浮かんでいた魔法の光を指のひとふりで消し去り、ルシカは寝室に戻った。 「さて、と――行かなくちゃ。ん……はふ。今日も一日、気持ちのいい天気になりそうね」  伸びとあくびを一度に済ませ、素肌にするりと下着をすべらせたルシカは、真新しい宮廷就きの魔法衣で慎ましく身を包み込んだ。ひんやりとした布の感触に励まされ、背筋がしゃんとのびゆく気がする。  寝台の傍らに立てかけてあった『万色の杖』の柄を手のひらにしっかりと握りこみ、すぅ、と空気を吸い込んだ。 「さぁ、今日も元気にいこうっ!」  独り明るい声を出して、扉を開ける。オレンジ色の瞳を心もち前方へと投げかけるように(おとがい)をあげて早足に歩くと、やわらかな金の髪が肩の上で元気に踊った。  宮廷魔導士であるルシカ・テル・メローニの日常は、こうしてはじまるのだ。
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