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特別な日 5
「うん、体得したい技があってね。――どうしたルシカ、大丈夫か。顔色悪いみたいだけど……昨夜も遅かったんだろう?」
今朝も真っ先にルシカのことを思い遣ってくれている。大きな手が伸ばされ、いかにも自然に額に置かれていたことに気づき、ルシカはようやく我に返った。
「このところ忙しいみたいだから、気にはなっていたんだ。あまり無理をして欲しくはないが――うん、熱はないみたいだな」
「あ、平気……ごめんね、心配かけてしまって」
テロンの手に自分の手を重ねるようにして、ルシカは応えた。その手を握ったまま眼前に引き下ろし、まじまじと眺めているうちに、ぽつりと本音がこぼれる。
「大きな、強い手……あたしも、こんな手になりたいな」
「え、ど、どうしたんだルシカ、いきなり」
ルシカは上目遣いにテロンを見上げた。意図してではなく、小柄な少女から四つ歳上の青年を見上げると、自然とそうなってしまうのであった。長身の青年はボッと音が聞こえるほどあからさまに顔を赤くして、「な、なにかあったのか」とか何とか、もごもごと口を動かす。
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