特別な日 9

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特別な日 9

 からかうような響きのある口調でニヤリと笑われ、ルシカは顔を熱くしてこぶしを振り上げた。 「なんですって! クルーガーっ」  巧みに避けるクルーガーを追いかけ、テロンの周囲をぐるぐる回る。ようやく追い詰めてみたが、いともあっさり手のひらで受け止められてしまう。線が細くしなやかな体格にみえても、クルーガーの筋力も剣の腕も相当なものなのだ。魔法使いの少女が挑みかかろうとも、びくともしない。彼にとっては猫とじゃれあっているようなものなのだろう。  はじめは(あき)れ、そのうち微笑みながらその光景を見守っていたテロンだが、ふいに我に返ったようにクルーガーに再び問いかけた。 「それで、どうするんだよ兄貴」 「ん? ああ。そうだなァ……やはりソバッカが言っていた伝説に頼るとするか」  聞きとがめ、ルシカが顔をあげた。優しげな弧を描く眉を寄せるようにひそめ、尋ねる。 「何のこと?」 「あ、いや、何でもない。こちらの話さ」  ニヤニヤと笑いながらルシカの額を指ではじき、クルーガーが応える。
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