特別な日 1

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特別な日 1

 陽光という名の火箭(ひや)が解き放たれ、高峰ゴスティアから天へ向かって差し広がった。  背後からのぼりゆく太陽がゾムターク山脈の銀の稜線をくっきりと黎明(れいめい)の空に描き出し、あたたかな光が天に満ちゆくとともに、空のいろを藍から蒼、さらに明るい青へと塗り替えていく。  夜明けを越えた地表にあふれる最初の色――不思議に澄んだオレンジ色と同じ色彩をもつ瞳がいま、『千年王宮』の一室で開かれたところであった。  目が覚めたルシカは、暖かな吐息をひとつついて天井を仰いだ。まだ朝は早く、部屋はやわらかな薄闇のなかにある。 「もう……朝」  そっとつぶやき、右腕を瞳の前に持ち上げて指で印を結びつつ天井へと突き上げると、何もない空中に魔法の光が生じた。光は天蓋の近くに浮上し、夜からはぐれたひとつの星さながらにきらきらと輝いた。ルシカは目もとをこすりながら起き上がって寝台(ベッド)から降り、ひたひたと素足のままに歩いていった。 「ねむいけど起きなくちゃ、ね」  寝室から奥の部屋へと進んだルシカは、薄い寝衣をするりと脱ぎすて、魔導の技で(ぬる)めた水で顔とからだを洗い清めた。付き従うように移動してきた魔法の光を反射して金の絹糸さながらに流れるやわらかそうな長い髪を、(くし)を使って丁寧に()かしてゆく。
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