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 * * *  夜になり、一汗かいた後、オレと翔はそろってタバコを吸っていた。 「僕、最近は家でも、タバコ吸う時あるんですよ」  適当に着付けた浴衣の襟元を直しながら、翔はもうすっかり慣れた風に、煙をくゆらせて言った。  オレは吸い殻を灰皿に押し付けてから、翔の方を見た。  少し意外だった。翔はこうして時々、オレの喫煙タイムに付き合ってくれるのだが、タバコ自体にそこまで愛着があるようには見えなかったからだ。 「でも、たいして良いモンだとは思えないんですよね。龍さんの家で吸う時だけは、なんでか、美味しいような気がするんだけど」 「ヤッた後のタバコってのは、格別に美味いんだよ。そういうもんだ」 「アハハッ。そっかぁ」  翔は、照れくさそうに笑っていた。その顔は少しやつれていて、初めて会った頃に比べると、ほんの少しだけ大人びて見えた。 「翔。最近何か、悩みごとでもあんのか?」 「どうして?」 「いや別に、なんとなく気になってよ」 「……」  詮索するのは気が引けたが、どうしても気になった。それはやはり、昼間に浜辺で会った時の、あの翔らしくない、覇気のない表情が忘れられなかったからだ。  翔に秘密主義のような一面があることは、よく解っていた。  アイツは、私生活に関することもそうだが、特に自分自身の内面に触れるような部分には、他人を近付けたがらなかった。  その気持ちは、オレだって少しは解らんでもない。人からの干渉を窮屈に感じる人間というのは、世の中案外多いもんだ。  翔は思った通り、最初は話すことを渋るような顔をしていた。しかし、手にしていたタバコを灰皿に捨てると、ぽつぽつと言いにくそうに語り出した。
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