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 * * *  夕方になり、オレは店をタクに任せて、休憩を取ることにした。  店の裏でタバコを吸っていると、タクが勝手口から半分顔を出して、オレの肩をつついた。 「龍さーん。昼間にバイク乗りのニーチャン助けたっての、龍さんのこと?」 「いや、助けてはいねえよ。ちょっとの間、駐車場貸しただけ」 「ふーん。でも、お礼したいっつって来てますよ。そのニーチャンが」  そう告げると、タクはまた忙しそうに扉を閉めた。  オレはタバコを一本、のんびりと吸い終えてから、店に戻った。  厨房の中から狭苦しい店内を見渡すと、隅のテーブル席に、昼間見たあの姿があった。行儀よく、ちょこんと膝に両手を置いて、背筋を伸ばして座っている。翔はオレの姿に気付くと、笑顔で会釈した。 「こんにちは。昼間はお世話になりました」  そう言ってオレを見つめる、その頬が少し赤い。腕や鎖骨の辺りもほんのりと赤くなっていた。きっと半日外を駆け回って、日焼けをしたのだろう。  オレは厨房から出て、翔の側まで歩いていった。 「大変だったな。バイク大丈夫だったか?」 「中古で買って、古いチェーンのまま乗ってたもので……。パーツが無いから、今日中には直らないそうです」 「そうか」 「一旦預けて、一週間後にまた取りに来ることになりました。なんか疲れちゃったんで、今日はこの辺で一泊して、明日になったら電車で帰ることにします」 「そう急ぐ旅でもないってことか。それならまあ、せめて美味いもんでも食ってけよ。注文は?」 「ハイ。さっき、お刺し身の盛り合わせを頼んだところです」  ちょうどその時、タクが刺し身の盛り合わせを片手に、オレの背後からひょっこりと顔を出した。
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