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● 蓮 ●
いつになったら雅は素直になるのだろう。
蓮は何度もチャンスを与えてやっているのに、雅は強がってばかりで自らの首を締め、そのくせすべてを蓮のせいにしている節がある。
愛される体に作り変えられた雅に、もう女は抱けない。
それなのに彼女とは別れないと意地を張る。
歯痒くてたまらず、蓮もその意地に乗ってズルズルとミホとの付き合いを続けているが、そろそろ潮時が迫っていた。
本当に、歯痒い。
「蓮、……しないの?」
「……気分じゃねぇ」
「………………はぁ。 蓮、そればっか」
下着だけの姿で蓮を誘惑しようとしたミホは、ベッドに寝転んで膨れっ面をしている。
セックスを拒否したのはこれが初めてではない。
半年前、蓮は雅を抱いてから急に女の体を受け付けなくなったのである。
派手な勝負下着を身に着けたミホは、今日こそ蓮とセックスしたいと意気込んでいたに違いない。
別荘に到着早々、雅達を外に追い出してまで誘惑してきたミホに、蓮は冷めた視線を送る。
───雅が観念してさえくれれば、別れられるのに。
どうしてこうなったのか。
告白してきたミホと軽い気持ちで付き合い始めた翌日、雅もキヨカと交際を始めたと聞いて「は?」となった。
中学時代からの親友である雅を恋愛対象として見た事は当然無かったが、その絶妙なタイミングでの交際宣言に疑問を抱いた。
それから数カ月、雅から送られる視線の熱さに気付いた蓮は、確認の意味を込めて遊びで雅の唇を奪ってみた。
数人の友人らとバカ騒ぎしていた中でのひとコマだったので、「何してんだ」と笑って返してくるかと思えば、予想とは違う反応をされたのだ。
頬を真っ赤に染め、無言で蓮の肩を押した雅の表情ですべてを悟った。
『……こいつ、俺の事好きなんだ』
いつからか蓮は無意識に雅を独占していた事をも自覚させられ、事あるごとに不意打ちのキスをしては雅の反応を楽しんだ。
雅の蓮への好意はあからさまだった。
そのため蓮は、雅からの「彼女とは別れた」宣言と「蓮の事が好きだ」という告白を待ち侘びているにも関わらず、いつまで経っても言ってこない。
蓮と張り合うようにして彼女との付き合いを続ける雅は、意固地になっているだけだと分かっている。
セックスの最中、背筋に甘い痺れが走るほど切なく名前を呼んでくる雅を、これ以上他の者と共有していたくなどない。
観念して「蓮がいい」と言ってさえくれれば、蓮は雅をドロドロに甘やかしてやるのに。
時折痛いほどに突き上げてしまうのも、意地悪な言葉を吐くのも、やめてやる。
早く俺のものになれよ、と何度も言いかけて口を噤む蓮も、雅と同等に意地っ張りであった。
───ドンドンドンっ。
激しく部屋の扉を叩かれ、雅を甘やかしてやる妄想をしていた蓮の意識が覚醒する。
「蓮くん!」と慌てた様子で扉を叩いているのは、雅の彼女であるキヨカだ。
「エッチしてる最中にごめん! 蓮くん!! 雅が…っ、雅が…!!!」
扉を開けると、半裸の雅にそう詫びながらも必死の形相を崩さないキヨカに、胸騒ぎを覚えた。
「なんだよ、雅がどうしたんだ」
「雅が、湖に落ちちゃって…っあ! 蓮くん!」
キヨカが言い終わらぬうちに、蓮は別荘を飛び出した。
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