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「………っ、…ふっ、……はぁ、…っ」  無音の室内に、二人の切ない吐息が響いている。  外はいくらか穏やかになったようだが、雨は依然としてまだ止む気配がない。  秘部から漏れ聞こえる、ぐちゅぐちゅと粘膜の擦れる音は都合良く雨音にかき消されていて、そのせいかいつもより羞恥心が和らいでいる気がした。 「お前いつまで付き合うんだよ」 「……っ、? 何…っ?」  最奥を突きながら首筋をべろりと舐め上げる蓮が、天井を虚ろに見上げていた雅の視界に入ってきた。 「女だよ。 いつまで付き合うんだって聞いてんの」 「そんなの分かんねぇよ…」 「気持ちがないなら別れろよ。 相手に失礼だと思わねぇの?」 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 「…ふん、……生意気」  ここ最近の蓮は、こんな風な台詞をよく吐く。  自分の事は棚に上げて、雅には「彼女とは別れろ」と説得とまではいかない助言をしてくるのが無性に腹が立つ。  雅を散々貫いておいて、自らは彼女と別れる兆しを見せない。  助言を交わすと、蓮はたちまちイライラし始めて激しく雅を揺さぶった。 「んぁぁっ…! ちょっ、蓮、痛いって…!」 「お前には痛いくらいがちょうどいいだろ。 女と別れりゃもう少し優しく抱いてやるよ」 「バカ言う、な…! なんで俺が、別れなきゃなんねぇんだよ…っ」 「ならずっとこうだ」  組み敷かれても強気な雅を、どこか悲しげな瞳で睨み付けてくる蓮の気持ちなど、分からない。  蓮の苛立ちの理由もだ。  限界まで腰を曲げさせられて、激しく貫いてくる熱を何度も何度も受け止める。  広い背中に回した腕が痺れてしまい、感覚が無くなっても、必死でしがみついていないと壊されてしまいそうだった。 「んっ…ッ……っ…っ……」 「なぁ雅、いい加減観念したら?」 「…っ……何の話だよ…っ」 「頑固だな、マジで」 「だから何の話だって……ぁぁっ…!」  蓮が薄っすらと笑んだその瞬間、今一度最奥を突かれて二人の腰が痙攣した。  何度となく交わってきた賜か、二人の射精のタイミングはピタリと合っている。  腹内部に生々しい温かみを感じて瞳を閉じると、雅の胸元まで弾け飛んだ自身の精液の匂いがやけに鼻についた。  覆い被さる蓮の体重を受け止めてやると、雅は無意識にギュッとその大きな体を抱き寄せて、足を絡ませた。 「…………観念しろよ」 「イヤ」  何の事だか、ととぼけると、蓮から荒々しく唇を奪われた。  唐突なキスにも雅は驚く事なく、蓮の舌に自らのを這わせて無心で味わう。  お互い彼女がいるにも関わらず、こうして体を重ね始めて半年。  意味のない不安定な付き合いに時間と心を割き、出口の見えない暗闇に沈んでしまっている我が身に心底嫌気が差す。  こんな事をいつまでも続けていていいわけがない。  だが、悩んでも悩んでも、結局は蓮の手からは逃れられない。  好きだから。  蓮の事が、好きだから。  そして蓮も、雅との罪深い逢瀬に毎度心を痛めているはずだった。  それでも、やめられない。  とろけるような甘さを含んだ舌が、蓮の言わんとする事を伝えてくるのだ。  別れろよ、と無責任な事は言うくせに、大事な事は何一つ言わない不誠実な親友。  そんな蓮を好きになってしまい、何かを忘れたいともがき苦しみながら喘ぐ雅もまた、──無責任だった。
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