10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
楓は胸が詰まるような、苦しい気持ちでいると、突然、頭をポンポンと軽く叩かれた。
振り向くと、恥ずかしそうに顔を逸らした智也が、楓の頭に手を乗せていた。
「まあ、その……なんだ? 俺でよければ、来年も一緒に食べてやるから」
俺なら、鬼化すれば神域からひとっ飛びで、桃ぐらい取ってこれる。と、モゴモゴしながらも、楓を慰めようとしてくれる智也の姿に、楓は小さく笑った。
「そうですね。来年も三人で食べましょう!」
そのまま、楓が器を見下ろすと、白桃の数が減っている事に気づく。楓が訝しんでいると、横から小さな手が伸びてきて、残りの白桃を取ろうとしたのだった。
「おい、白樺。貴重な『食事』に手を出すな!」
智也は白樺を抱き上げると、残っていた自分の分の白桃を器ごとあげたのだった。
喜んで食べる白樺の姿に、二人は自然と顔を見合わせて笑い合ったのだった。
そうして、楓は残りの白桃を口に入れる。
シャキシャキと白桃の果肉と一緒に、甘い果汁が口の中に一杯に広がった。
よく熟して甘いはずなのに、どこか酸っぱいような気がした。
その甘酸っぱい白桃は、楓にとって忘れられない味となったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!