忘れていた思い出、思い出した味

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楓は胸が詰まるような、苦しい気持ちでいると、突然、頭をポンポンと軽く叩かれた。 振り向くと、恥ずかしそうに顔を逸らした智也が、楓の頭に手を乗せていた。 「まあ、その……なんだ? 俺でよければ、来年も一緒に食べてやるから」 俺なら、鬼化すれば神域からひとっ飛びで、桃ぐらい取ってこれる。と、モゴモゴしながらも、楓を慰めようとしてくれる智也の姿に、楓は小さく笑った。 「そうですね。来年も三人で食べましょう!」 そのまま、楓が器を見下ろすと、白桃の数が減っている事に気づく。楓が訝しんでいると、横から小さな手が伸びてきて、残りの白桃を取ろうとしたのだった。 「おい、白樺。貴重な『食事』に手を出すな!」 智也は白樺を抱き上げると、残っていた自分の分の白桃を器ごとあげたのだった。 喜んで食べる白樺の姿に、二人は自然と顔を見合わせて笑い合ったのだった。 そうして、楓は残りの白桃を口に入れる。 シャキシャキと白桃の果肉と一緒に、甘い果汁が口の中に一杯に広がった。 よく熟して甘いはずなのに、どこか酸っぱいような気がした。 その甘酸っぱい白桃は、楓にとって忘れられない味となったのだった。
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