忘れていた思い出、思い出した味

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夢を見ていた。まだ普通の女子のように、セーラー服を着て、女子高に通っていた頃の夢だった。 朝は嫌々学校に行って、授業を受けて、帰りに親友の藍蘭(あいら)と寄り道をしていた。 今となっては、遠い昔の出来事。 もう戻ってこない日々。 「ん……」 右頰に圧力を感じて、楓(かえで)は目を覚ました。起き上がると、いつの間にか自分の右側には、頭に小さな角を生やした小さな鬼の男の子が寝ていたのだった。 頭と足が楓とは逆向きに寝ていた。どうやら、右頰に当たったのは、この子の足だったようだ。 「白樺(しらかば)、朝だよ〜」 小鬼の足を軽く叩きながら、楓は名前を呼び続けた。 「起きて、白樺〜」 しかし、小鬼ーー白樺は、寝息を立てるばかりで起きる気配は一向になかったのだった。 「もう……」 楓は白樺を起こすのを諦めると、寝巻きを脱いで着物に着替えた。 白樺によって、この社に連れてこられたばかりの頃は一人で着物を着る事が出来ず、住み込みの神遣えに着付けをしてもらっていた。 さすがに、半年以上も毎日着物を着続けていたら一人で着付けも出来るようになったのだった。 楓が着替え終わった頃、障子越しに足音が聞こえてきた。 足音は楓と白樺の部屋の前でピタリと止まると、声をかけてきたのだった。 「楓。起きているか?」
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