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ピクシーズ
やはりと言うべきかその場のノリで仕事を辞めてしまったのは失敗だったようだ。
岡島秀夫、28歳独身。
上司のご機嫌取りや接待営業の日々に疲れた俺は元号が令和に変わると同時に心機一転脱サラし、もっと楽で稼げる会社を探し求めた。
まだ20代だし仕事なんていくらでもあるだろと高を括っていたが、当然現実はそう甘くない。
特に特殊な技能もなく、パソコンなんかも普通程度にしか使えない30間際の男の転職活動は困難を極めた。
面接から帰り、アパートのポストを開けば不採用通知の手紙を見て項垂れるような毎日が半年も続くうちにいつしか俺の考えは『楽して稼げる仕事がしたい』から『この際正社員で働けるならどこでもいい』へとシフトしていく。
コンビニから持って帰った求人誌の情報も良く見ずに片っ端から電話をかけまくった結果、ようやく1社だけ書類選考と面接を通過し仮採用までたどり着くことが出来た。
さて、前置きが長くなってしまったがそろそろ紹介しよう。
俺の新しい仕事、それは〝妖精〟になることだ。
都内に存在する大人気巨大テーマパークのラッキーランド。
今日も俺はそこで人の目には見えない妖精としてペンを走らせていた。
『本田りょうこ ちゃんへ
きみが園内で落としたラッキーのぬいぐるみを見つけたよ
りょうこちゃんの家まで届けるから大切にしてあげてね
落とし物を見つけるのが得意な妖精より』
およそ30代手前のむさい男が書いたものとは思えないほど丸くて可愛らしい文字で手紙をしたためた後、園内のベンチ脇で見つけた猫のラッキーぬいぐるみをラッピングして郵便BOX行きと書かれたカゴの中へと入れる。
「ふー、ようやく1件終わり」
岡島秀夫、28歳。
現在の職業、妖精という名の落とし物係。あくまでまだ試用期間中の身だけど今日を終えればその3ヵ月も終わり、このまま行けば正式に社員として雇用してもらえそうだ。
しかし、俺はこのまま落とし物係の仕事を続けて行くかどうかを少し迷っていた。
というのもこの仕事、給料はそこそこ低い割に内容はものすごくハードなのだ。
敷地面積が広大なラッキーランドには毎日10万人近い入場者が訪れる。ともすれば落とし物カウンターで提出される捜索依頼書も10枚や20枚ではない。
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