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舞台を見終えると、最後に当時ヒーロー役を演じていた役者さんからサインを貰えたんだ。
だけど、俺はそれをうっかりどこかへ置き忘れて失くしてしまった。
どこを探しても見当たらなくて、悲しくて泣きじゃくったっけ。
結局見かねた母親と一緒に落とし物コーナーに行ったけれど、そこにもサイン色紙は届いていなかった。
『じゃあ見つけたら連絡するんでここに連絡先だけ書いといてくださいね』
その時の係員の表情はとても面倒くさそうで、対応も事務的で、優しさや気遣いなんて1ミリも感じられなくて、俺はまた泣いた。
あの時、班長みたいな人が係員をしていたら目の前で涙を流す少年になんと声をかけただろうか。
思えば大人になってからも俺は優しい言葉とは無縁の生活を送ってきた。
『おい岡島、コーヒー淹れてくれ』
『まだ企画書出来てないのかウスノロ』
『本当に使えないなこいつ』
そんな言葉の数々を聞き続ける毎日に疲れ果てて、会社を辞めたんだ。
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