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◆
「うぅ」
怖い。確かにわたしから言い出したことだけど、このなんとも言えない不気味さは、わたしの恐怖心を極限まで高めた。
ギシギシと床が鳴る。わたしは、唯一心の支えである白猫君の、学制服の裾をしっかり握りしめる。
夕刻、沈みかけている真っ赤な陽の光が白猫君の黒い学生服とさらりとした『純白の髪の毛』を照らす。
わたしはどちらかというとしっとりとした髪質なので、白猫くんのさらりとした黒い髪はうらやましく思う。
わたしが白猫君に旧校舎へ一緒について来てもらったのは、他のみんなの都合が合わなかったというのもあるのだけど。
頼りになりそうな、ならなさそうな……うーん。
まあ、不思議な感じに惹かれてといったところかな。
黒猫塚白猫君――不吉のようなそうでないようなよくわからない名前。黒猫が目の前を通りすぎたと思うと次の瞬間、白猫が横切る。まるでプラマイ0のような――
わたしが、少しでも気を紛らわせるため白猫君の事を考えていると、急に白猫君は足を止める。
「どうしたの?」
「いや、なんかこの建物揺れてないか?」
え? 特にそんなのは感じてなかったけど……。
――揺れてる。確かにほんの少しだけ揺れてる感覚がある。言われなければ気づかなかった。
「ど、どうしよう。地震かな?」
私は、不安に駆られ白猫君に訊く。白猫君は、廊下の先。わたし達が2階へと上がってきた階段がある方向を向き、神妙な顔つきをしていた。
その方向には――
「ひっ! な、何? あれは……ナニ?」
わたし達から、約30m先。触れるだけで切り裂かれそうな長く鋭い爪。一瞬にして首を喰い千切られそうな禍々しい牙。
廊下の幅を埋め尽くす程の巨大な体躯。
化け物がそこにいた。
その化け物はじりじりと――じわりじわりとこちらに這い寄る。
「ね、ねえ! どうしよう! 早く逃げなきゃ!!!」
怖い怖い怖い……。わたしは、とにかくこの場から逃げるべきだと思い、白猫君の手をひっぱる。けれど、白猫君は微動だにしない。
「ね、ねえ! どうしたの?」
わたしは引っ張るのをやめ、白猫君に訊く。
早くしないと化け物が、すぐ近くまで来てるのに!!
すると、今度は白猫君の手に力が入った。
そしてわたしは、触れただけで全身を切り裂かれそうな爪と、一瞬にして首を喰い千切られそうな牙を持ち、廊下の幅を埋め尽くす程の体躯の、化け物に向けて――放り投げられた。
「え?」わたしは、白猫君の方を見る。
白猫君はわたしに向けて、今までで一番素敵な笑みを浮かべていた――
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
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