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第48話。貴族院の人々、救出
吹き抜け廊下から城内に入り込んだ俺達は、小走りでどんどん道を進んでいく。先頭にルーシィ、真ん中に俺、最後にサラシャと並んでいる。
声を出してもそれぞれ1人ずつ遮音結界が貼られていて聞こえないので誰も喋らない。止まったりする時は手で合図を送ったりしている。
先に向かうのは貴族院の人達が捕らえられている4階。人数が少ない方を先に救出した方が楽だし。
巡回兵の数が多く、結構時間がかかってしまったが30分程で4階の部屋に到着した。
部屋の前の警備兵は2人。漫画とかの主人公なら、ここで首筋に手刀を打ち込んで気絶させるんだろうが、俺はその選択をしない。あれはピンポイントで相当の力を込めないと気絶させられないし、障害も残りやすい。それに、加減を間違えたら強靭な肉体を持つ獣人とは言え、俺の結構雑な力加減じゃ文字通り首を飛ばしてしまいかねない。
サラシャに合図を送って遮音結界を解除してもらい、俺とルーシィはそれぞれ別れて静かに警備兵の背後を取る。顔を見合わせてタイミングを測り、一気に実行した。
飛びかかってまず左手で口を押え、抵抗出来ないように腕ごと胸の辺りを足で挟んで固定。右手で頸動脈を押さえて脳への血流を遮断し、気絶させた。
この方法も障害が残る可能性はあるが、首を飛ばしてしまう可能性がない分、首トンより幾らかマシだ。
「眠りなさい……闇魔法、スリープ」
声が聞こえてきたルーシィの方を見ると、ルーシィは警備兵の口を手で塞ぎながら魔法を使っている。俺の知らない魔法だ。職業特性的に遠距離だと出来ないけど、ゼロ距離からなら俺でもできるだろうか? 可能ならそっちの方が安全なので、無事に警備兵を無力化したルーシィに聞いてみた。
「そっちも上手くいったみたいだね。その魔法、俺にも教えて欲しいんだけど。いいかな?」
「ええ、いいわよ。魔法理論の授業で習ったんだけど、精神に影響を及ぼせる闇魔法の一種で、対象を眠らせることが出来るの。便利だけど闇魔法の使い手が少ないから超マイナーね」
国民のほぼ全員が魔法を使える神魔国に居ると忘れがちだが、魔族、天族、エルフ以外の種族で攻撃レベルの魔法を使える魔法士は、千人に1人とかの確率。
その魔法士の中でも闇魔法が得意な人は1%程度だろう。因みに最も得意な人が多いのは火属性の25%だ。火属性が多いのは単純に強くてイメージしやすいからで、得意属性が火属性を含めた2種類あったら火属性を選ぶ魔法士が多い。
魔法はキーワード=魔法名とイメージで発動するので、火水風土はイメージし易いから優れた魔力量とその属性の才能……つまりスキルがあれば比較的簡単に習得できる。反対に、光と闇はイメージがしにくい上にそもそもスキルがある人自体少ないから使い手が少ない。
全属性魔法のスキルを持つ俺は、自分で言うのもなんだがかなり希少だ。普通は1属性か2属性らしいし。
「俺も来年は魔法理論取ろうかな。まだまだ知らない魔法がいっぱいあるみたいだから」
「そうしたら? あたしは大歓迎よ」
「やっぱり色々な魔法を知っといた方がいいよね。俺は魔法剣士だから使えない魔法も多いけど、いつか魔法士の職業も取れるかもしれない」
「エミルは魔弓士も持ってるし、いつか取れてもおかしくないわね」
ルーシィの言葉に頷いてスリープのコツを聞き出しながら警備兵の懐を探って鍵を入手し、彼らを壁に持たれかけさせた。無事に終わったのを見計らって自身の遮音結界を解除したサラシャに、頼み事をする。
「サラシャさん。この人達に、動かない遮音結界をかけて欲しいんですが」
「かしこまりましたわ。ずっと解けないと大変な事になってしまいますので、明け方頃に解除されるよう調整いたします…………できましたわ」
「助かります」
その結界を誰にも見えないように幻覚魔法をかけ、扉横には警備兵が立っているように見せかける。これだけ細工しておけば、気づかれるまでかなり時間が稼げるだろう。
「完璧ね。鍵貸してくれる? まずあたしから入るわ」
「わかった」
ルーシィに鍵を渡して、俺とサラシャは部屋の前で見張りをしながら待機。耳をそばだてているつもりは無いが、ルーシィと貴族院の人達の会話が聞こえてきた。
「みんな、助けに来たわよ。遅くなってごめんなさいね」
「ひっ、姫様!? よくぞ、よくぞご無事で……」
「あの惨劇で亡くなられたと思っておりました……。本当に良かった! ですがどうやってここに?」
「協力してくれた人がいるの。エミル、サラシャ、入ってきてくれるかしら」
ルーシィに呼ばれたので入室すると、50名の獣人から一斉に視線を向けられた。
「初めまして。ルーシィと友達のエミルです」
「同じくサラシャと申しますわ。お見知りおきを」
「こ、子供の天族とハーフエルフ……? 姫様、彼らと一体どうやってここまでたどり着いたのですか」
協力者と聞いて大人を想像していたのか、動揺した様子の虎獣人は、ルーシィに質問を重ねた。
「エミルの幻覚魔法で姿を隠して、サラシャの結界魔法で音を消して来たの」
「なるほど、それなら……。しかし、結界魔法なんて聞いた事がありません。ダンジョン魔法ですかな?」
「サラシャの魔法については詮索無用よ。他言もしないで」
「かしこまりました。して……脱出先は決まっているのですかな?」
あ。脱出することを考えるのに手一杯で完全に忘れてた。全く何やってるんだよ俺……。肝心な所で抜けていた自分に軽く自己嫌悪に陥っていると、ルーシィがスラスラと答えだした。
「それなんだけど、狐族の屋敷を使おうと思ってるわ。没収されてからは近寄ってもいなかったけど、今は放棄されてるはず」
「あの御屋敷は押収当初に調べの兵が入って調度品を運び出して以降、完全に放置されていました。確かにあの場所なら数日は気づかれないでしょうな」
ルーシィの父が王だったからルーシィ一家は城に住んでいたが、獣王祭で敗北すれば貴族に戻って城には住めなくなるので、一族の屋敷もあったのだろう。
「えぇ。ベスティエ内に幾つかある放棄屋敷のひとつだし紛れられるわ。取り敢えず向かう場所はそこね。それと……地下のハーフエルフ達も助けたいわ」
「ハーフエルフ達? なんのことですかな?」
「ここの地下牢に、世界中で行方不明になってたはずのハーフエルフ100人が捕まってるのよ」
「なんと……! 早く助け出してやらねばなりませんな」
「ええ、そうね。あたし達が1階の庭まで誘導するから、皆それについてきて。到着したら気づかれない様に魔法をかけるからそこで待ってて欲しいの。その間に急いで助けてくるわ。エミル達もそれでいいわよね?」
妥当な判断だな。50人を連れて地下まで降りてまた1階に戻るのは非常に無駄がある。なら彼らには待機してもらった方が良いだろう。
「いいと思うよ。俺は賛成」
「私もですわ」
「ありがと。そうと決まればさっさと行動に移すわよ」
貴族院の人達に並んでもらい、それぞれに近寄ってどんどん幻覚魔法をかけて姿を隠していく。もちろん今回もお互いの姿が見えるように調整している。俺もサラシャも数分で魔法をかけ終えたので、ルーシィを先頭にしてゾロゾロと部屋を出て1階を目指した。
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