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10 顛末
聖クラネス医院の病院長が逮捕された。片桐の主治医であった、あの男である。
警察の調べによれば、彼は『星の智慧派教会』なる国際的カルトのメンバーであり、院内に勤務する他の信者らと結託。彼らが崇拝する神に生贄を捧げるためだとして、医療認可のない薬物を多数、実態を偽りながら患者に処方していたのである。
曰くその神とは、人類の夢の奥深くに鎮座する千なる貌を持つもの、外の世界から訪れし邪なるもの、ということだったが警察はおろか世間の大半は、夢現の区別がつかない狂人どもの戯言であるとして殆んど相手にしていない。
それどころか彼らによって処方されていた薬の大半は、化学的成分がデタラメで睡眠導入剤としてはおろか、向精神薬としてすら機能しない、薬効が皆無に等しい代物であることが後に判明した。
片桐を含む被害者たちには、事件の全容解明に向けて警察から出頭要請、および精密検査の受診が呼びかけられたが、片桐はこの呼びかけを黙殺した。ならば、夢の中で片桐との逢瀬を重ねたあの少女は、サヤカとは一体何だったというのか。夢に現れる願望の化身、死に別れた猫の生まれ変わり、千の貌を持つという邪の神、あるいは単なる……。
片桐はそれ以上、何も考えたくなかった。
また報じられたところによれば、あの医師の主たる逮捕容疑は詐欺罪、私文書偽造、そして動物愛護法への違反であった。
他ならぬあの医師こそ、野良猫のサヤを殺害した張本人だったのだ。
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