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本当は…
「小山田先生の原案、今回も、すごく良い出来です!」
分厚い書類の束を読むなり、ゲームアプリの担当スタッフは、目を輝かせて言う。俺の今の担当は、若い女性だ。
女の人なのに、本当にギャルゲーの良さなんて、理解しているのだろうか? 女性と接点が少ないせいか、つい疑ってしまう。もちろん、面と向かって、言ったりはしないが。
そして、担当スタッフお決まりの台詞……。
「やっぱり、モテる人は違うなぁー。次は、ハーレム物とかどうですか?」
「あー良いですねー」
ハハハと笑って、誤魔化す。本当の事など、言えるはずがない。それも、年下の女性に。俺は、そそくさと席を外し、その場をあとにした。
家に帰る電車の中で、ふと思う。いつからそんな勘違いをされていたのだろうか。ちゃんと訂正しなければと思いつつ、本当の事が言えない。自分は、彼女居ない歴=年齢です。だから、片想いしか知りません。書けません。
なんて、言えないよな。女の子と付き合うゲーム、ギャルゲーの原案を書くのが、俺の仕事なんだから……。
いつしか家でゲームをしていると「あー、こんな彼女がほしい……」と、独り言を呟いてしまうようになった。
自分の作った、理想の彼女たち。特に『野々宮野々実』は、俺の1番のお気に入りだ。自分の作ったキャラを自分で落とす。それが、俺の数少ない趣味である。
「あー。野々実みたいな彼女、欲しいなぁー」
そんな夢みたいな事、あるはずないんだけどさ。明後日も『野々宮野々実』関連の仕事があるせいか、野々実の事が頭から離れない。
「あーもう! 夢見てないで、早く寝よう! 締め切りに追われて、ろくに寝てないのに……」
うう……。そう考えたら、急に、睡魔が……。
「起きて……」
「う、うーん」
誰だよ、もう。やっと仕事が終わったんだから。少し寝かせてよ。せめて、今日くらいは……。
「起きて……。光太郎くん……」
うん? 光太郎くん? 一人暮らしを始めてから、俺を名前で呼ぶのは、ゲームのキャラだけ。また寝落ちしたのかな? 大きく伸びをして、アクビをかくと……。
目の前に、見知らぬ女の子が居た。
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