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野々宮野々実
この子、野々宮野々実にそっくりだ。いや、そっくりなんてレベルじゃない。雪のように白い肌。淡い桜色の髪。そして、ルビーのように赤く光る瞳……。
「まさか、野々宮……野々実……?」
いや。慌てて首を横に振る。『野々宮野々実』は、ゲームのキャラクターだ。それに、本物はアニメの絵のはず。だけど、目の前に居るのは、人間の女の子だ。野々実と同じ、白いフワフワのニットに、ピンクのミニスカート姿。
この子は、コスプレイヤー?
野々宮野々実の、熱狂的なファン?
女の子は目が合うと、ニッコリと微笑んだ。
『問題です』
「うわあ!」
目の前に突如表れる、文字、文字、文字! 文字が、宙に浮いている……。その光景は、どこか見覚えがある。
これって、まさか。ゲームの選択肢? 疑問に思いながらも、文字を確認する。そこには……。
A「おはよう」と挨拶する。
B「どうして、ここに!?」と聞く。
この文字、見覚えがあるな。じっくりと眺める。宙に浮かぶ文字は、やはり選択肢だ……。
まだ、夢を見ているのか? 夢なら、面白いな。新作のアイデアに生かせるかもしれない。
よし。もしこれがゲームなら、選択は1つ! Bの「どうして、ここに!?」だ!
Bの文字に勢いよく、触れる。少しの間を置いて『ブブー』と、不正解の音が鳴る。
何で? 今の状況で選択肢はこれしか──
『勇気』が2足りないと表示される。何だよ、それ。ステータスまであるのかよ。仕方なく、Aを選択する。
「おはよう」
「おはよう、光太郎くん。野々実、朝ごはん作ったよ」
野々実を名乗る女の子が、上目使いで言う。か、かわいい! 夢でも何でもいい。野々実が手作りした朝ごはんを食べられるのなら。
テーブルの上には、見た目の印象とは違って、和食が並んでいる。サケの塩焼きに、卵焼き。ほうれん草のお浸し。そして、ご飯とお味噌汁。朝からこんなにちゃんとした食事を取るのは何年ぶりだろう? 幸せすぎる……!
食べようとすると、また選択肢が。今度こそ、カッコよく決めたいな。
A「旨そう‼ 腹ペコペコだったんだ!」
B「いただきます」
C「……」驚いて、何も言えない。
これは、Aを選ぶしか無いでしょ? もちろん、Aを選んだ。『ブブー』勇気が足りません。仕方ない。じゃあ、Bで。『ブブー』優しさが足りません。
……何だよ、この夢。仕方なくCを選ぶ事にした。
何も言えずにいると、野々実が不安そうに声をかけてきた。
「……和食、好きじゃなかった?」
「そ、そんなこと無いよ!!」
これは、まずいことになった。たとえ夢だとしても、野々実に嫌われたくない……。何とかして、ステータスを上げないと!
でも、具体的には、何をすれば良いんだろう。そう悩んでいた時だった。
「どうしよう? 準備してくるの、忘れちゃった……」
野々実が困ったように呟く。心なしか、その目は俺を見ている気がする。
「何か欲しいの? 俺、買ってくるよ」
「本当に!? ありがとう。実は──」
急いできたから、化粧するのを忘れたらしい。化粧なんかしなくても、野々実は可愛いのになあ。
……ところで、野々実には「買ってくるよ」なんて、軽く言ったけれど。メイク用品って、何を買えば良いんだ?
悩んだあげく、少しの勇気を出して、コンビニ店員に聞いてみた。
「メイク用品ですか? ここにありますよ」
店員が、少しだけ笑っている気がする。きっと応援してくれているんだ‼ と、今だけはポジティブに受けとる。まあ、どうせ夢の中だし。
案内された棚には、まあまあな数の化粧品が並んでいる。チークだのクリームだの、サッパリわからない。口紅つけて終わりじゃ、ダメなのか?
迷った末に『メイク一日分』と書かれたポーチを手に取る。『お泊まりにも』と書かれた文字に、一瞬、ドキリとする。
俺は動揺を隠して、レジへ向かった。
ピロリン♪
明るい音が聞こえたあとに、勇気が2上がった。かしこさが3上がった。と文字が左右に浮かび上がる。これで良いのか! なんだ。結構、簡単かも……。
「二千三百円になります」
お、おお。化粧品って、意外と高いんだな……。
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