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一緒にいたい
野々実の仕度を待って、向かったのは、近くの公園。メイクをした野々実は、年齢よりもずっと大人びて見えた。7つ歳上の俺と並んでも、違和感がないくらいに。……たぶん。
他愛もない話をしながら、近所の公園へ向かう。平日ということもあり、人は居ない。
また、選択肢が表れる。
A手を繋ぐ。
B近くの花を摘み、渡す。
Cなにもしない。
手を繋ぎたいけれど。花を贈ってあげたいけれど。俺が、今すべき事は……。
「野々実。今日は、本当にありがとう。疲れただろう?」
公園のベンチの前へ先回りしてから、砂ぼこりを払う。そして、野々実を座らせる。
「光太郎くんは、優しいね。ありがとう」
野々実の笑顔を見たら……。気持ちが、押さえられなくなった。そのまま、野々実を抱きしめる。
「どうしたの? 光太郎くん」
「野々実……俺、野々実が好きだ!」
野々実の皮膚は、やわらかくて、人間みたいだ。このまま、流れに身を任せてしまいたい。キスしようと、少しだけ体を離す。
上から、野々実を見下ろす姿勢になる。向かい合って、いるのに。野々実の視線は、俺を無視して、真っ直ぐに正面を向いたまま。
「どうしたの? 光太郎くん」
さっきと、何一つ変わらないトーンで、笑顔で、野々実が答える。そんな予感は、していた。野々実の頬をそっと撫でてみる。
「どうしたの? 光太郎くん」
「……やっぱり」
野々実は、プログラムされた事しか、話せないようだ。
主人公が作った料理を二人で食べる事も、食器を洗う事も。二人で、公園にでかける事も、全部。シナリオの1つ。イベントの1つに過ぎない。
この世界の、野々実は。野々宮野々実は。イレギュラーな出来事に、対応できない。
それでも……。
野々実と視線を合わせ、ルビーのように赤い瞳を見つめる。野々実は、笑顔で言う。
「どうしたの? 光太郎くん」
すうーっと息を吸い込む。胸が張り裂けそうなくらい、痛い。思えばずっと、こういう事から逃げてきた。
誰かを好きになること。誰かと、恋愛をすることから。
「野々実、俺は──」
ビービーと、警告音が鳴る。
『好感度が足りません』
それでも、告白しますか?
→いいえ
はい
好感度なんて、関係ない。この想いを今、言葉にして伝えたい。もう、逃げるだけの生き方は嫌なんだ。
「野々実。俺は、君が好きだ」
「光太郎くん……」
野々実が困った顔をする。ごめんな。俺は、君を困らせたかった訳じゃないんだ……。データとしてでも、キャラクターとして、でもなく。俺はただ、君が『野々宮野々実』が、好きなんだ。それを言葉にして、伝えたかった。今すぐに。
「ごめんなさい、光太郎くん……」
野々実の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。野々宮野々実の出てくる『ののみん』シリーズは、全て攻略済みだ。原案から変わったシーンも、全てチェックしている。でも、こんなシーン、あっただろうか?
「いいんだ。今日はもう、家に帰ろう」
「うん……」
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