5人が本棚に入れています
本棚に追加
もう、日が暮れ始めている。遠くに夕日が見える。いつの間にか時間は流れていて、別れの時が近い気がした。
「光太郎くん……?」
「なんか、ごめんな。俺……こういうの、初めてでさ……」
別れが怖くて、野々実の手を握りしめていた。その手はとても小さくて、やわらかくて。そして、温かかった。
「……痛く……ない?」
心配になって、野々実の顔を覗きこむ。野々実は頬を赤らめて、首を横に振った。
「……嬉しい」
消え入りそうなほど小さな声で、野々実が呟く。どうかこの言葉が、俺の聞き間違えでは、ありませんように。俺は信じた事もない、神様に祈った。
野々実を離したくなかった。
野々実と、話をしていたかった。はず、だったのに……。
家にたどり着くと、体は鉛のように重くなり、夢の終わりを告げる。
「野々実……俺は、まだ──」
「見つけて。光太郎くんだけの、わたしを」
薄れ行く意識の中で、野々実の声だけが響いた。その声は優しくて、どこか懐かしい……。
最初のコメントを投稿しよう!