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1.転校生とはいつの世も不思議な者である
「十六女貘です。よろしくお願いいたします」
耳のすぐ下で結った長くボサボサのツインテールと抜けるような白い肌の転校生は、教室に入るなりそう言った。
生徒はもちろん、先生も驚いている。
転校生──十六女さんは黒板の前に立つわけでもなく、本当にいきなりドアを開けた瞬間、そう名乗ったからだ。
かくいう僕も、もちろん驚いている。
転校生が自分のクラスに来ることは何度かあっても、緊張して転ぶことはあっても、いきなり名乗る転校生は珍しかった。
「ま、まあ、こっちへ来なさい」
「わかりました」
先生がそう言うと、十六女さんは素直に従った。
開けられたままの窓から入ってきた風のせいで、十六女さんの髪がなびく。
その姿がとても綺麗で、何故か同時に既視感を覚えた。
まあ、デジャヴというのはよくあることだ。
そう思うことにして、僕は既視感の存在を忘れることにする。
先生は黒板に文字──おそらく十六女さんの名前だろう──を書いていて、十六女さんは何もせず立っている。
クラスメートの一人が、いつの間にか窓を閉めたらしくその髪はもうなびいていなかった。
それが少し残念に思ったのは、髪のなびいている姿がどこか幻想的に見えたからだろうか。
「みんな、十六女貘さんだ。病気でほとんど学校に通っていなかったから、仲良くしてやってくれ。席は、そうだな……和久田の隣だな」
途中から窓の外へ意識をずらして聞いていたが、自分の名前が出てきて驚いて前を向く。
確かに僕の隣の少し離れた机は、今は空席だけど。
いきなり転校生が来ると言われても戸惑ってしまう。
でも、生徒の僕に拒否権があるわけもなく、僕が戸惑っている間に十六女さんが隣に来てしまった。
「よろしくお願いします」
椅子に座った十六女さんが、こちらを向いてそう言った。
「え、あぁ、よろしく」
いきなりのことだったので、こんな挨拶しか返せない自分が悲しいけれど、仕方ないと思う。
だって、見れば見るほど十六女さんをどこかで見たような気がするのだから。
「どこかで会ったこと、ある?」
「あり得ません」
「小さい頃とか、どこかで」
「ないです」
そうはっきり断言されると、「興味ないから黙れ」と思われているようで傷つく。
けれど、初めて会った人にそんなことを聞かれたら嫌だと思うので、僕も既視感は気のせいだと思い直すことにした。
でも、やはり。
既視感が拭いきれないのは、何故なのだろうか。
疑問に思うけれど、その疑問について考える暇もなく授業が始まってしまったので、僕は既視感を保留にするしかなかった。
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