1.転校生とはいつの世も不思議な者である

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 図書室から戻ると、もう先生は来ていてチャイムが鳴るのを待つだけになっていた。 だから、急いで席に座る。 十六女さんはすでに戻っていたけど、僕の方をちらりと見ただけで何も言わなかった。  午後の授業は、コーヒー牛乳のお陰で睡魔に襲われることはなかったけれど、十六女さんの言葉のせいで身が入らなかった。 自殺したクラスメート。 その話題は僕にも、クラスメートにも禁忌だ。 一ヶ月経って他のクラスメートは、もともとそいつが目立つタイプではないからか時々思い出すくらいになっているようだけど、僕には忘れることができなかった。 きっと、一生忘れられないだろう。 「和久田、早く答えろ」 「あ、はい。えっと……」  先生に指名されていたようで、慌てて答える。 クラスメートの何人かにクスクス笑われてしまった。 が、その笑いは僕ではなく、ムッとするとなまはげのような顔になる先生に向けられたものなのだと知っているので、落ち着きを取り戻す。 どころか、僕まで笑いそうになってしまった。 ありがとう、なまはげ。  なまはげのお陰か、その後の授業はいつも通り過ごすことができた。 十六女さんは特に僕に話しかけることもなく、その後も僕と十六女さんの間に会話はなかった。 僕が避けていただけかもしれないけれど、十六女さんが転校生ならではの質問攻めにあっていたお陰でもある。 五月蝿いと思っていた質問攻めに、初めて感謝した。  そして、時間は過ぎていく。 「では、解散!」  授業がすべて終わり、先生の号令で僕たちは教室を出て部室や家に向かい始めた。 僕は、帰宅部なので家へ向かう。 一人で、図書室で借りた本を二宮金次郎のように読みながらとぼとぼ歩く。 でも、本の内容が頭に入ることはなかった。 頭の中は、あいつのことでいっぱいだったからだ。  あいつ──六郷(ろくごう)は、僕の親友と言って構わないはずだった。 なのに、突然自殺した。 僕には、前兆すらわからなかった。 六郷が入っていた天文部の先輩に虐められていたらしいけど、僕は帰宅部だったから気づけなかった。 その先輩たちは退校になったし、その先輩を責める人はいたけれど僕を責める人はいなかった。 でも。 「君は関係ない」  先生も両親もそう言ってくれたけれど、僕には関係あるとしか思えなかった。 だって、六郷の遺書には、こう書かれていたのを知っている。 『気づいてほしかった』  だから、僕はずっと後悔している。 どうして気づいてあげられなかったのか、と。 普段から遺書を用意しているくらい、六郷は追い詰められていたのに、どうして気づいてあげられなかったのか、と。
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