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2.悪夢は必ずしも悪だと限らないのである
屋上にいた。
周りの家と緑が入り混じった景色、そしてフェンスの色でここが学校の屋上だとわかったけれど、どうして僕がここにいるのか理解できなかった。
しかも、夜なのだ。
おかしい。
けれど、深く考える間もなく僕は気がついた。
屋上のフェンスの近くに、誰かがいる。
それも一人ではなく数人、しかもそのうちの一人が他の数人に虐められているようだった。
立ち入り禁止の屋上で、数人が一人を虐めている。
僕は咄嗟に止めようとしたが、フェンスの脇に置いてあった望遠鏡を見て気がついた。
これは、夢だ。
天文部では二ヶ月に一回、夜になってから屋上が天文部の部員だけに開放され、星座の観測会が開かれる。
その観測会で教師がいなくなった隙に六郷は蹴られ、殴られ、フェンスを乗り越え自殺した。
六郷の自殺により観測会は取り止めとなり、天文部も廃部になったのでこの光景はあり得ない。
何より、虐められているのは死んだ六郷なのだ。
だから、これは夢だ。
夢だとわかっていても、僕は耐えられなかった。
「六郷!」
六郷に呼び掛けるが、六郷は何も言わずに立ち止まる。
虐めをしていた先輩たちの姿は見えなかった。
階段を駆け降りる音がしたので、先輩たちは僕に見つかったから逃げたのだろう。
「六郷、先輩たちはいなくなったから」
「気づいてほしかった」
「……六郷?」
「気づいてほしかった」
六郷の表情は暗くて見えなかった。
でも、僕を恨んでいる気がした。
「六郷! すまなかった!」
「気づいてほしかった」
六郷はそう言うと、止める間もなくフェンスを乗り越えて──僕の目の前で落ちていった。
グシャ、ズドン。
何かが潰れる音がした。
でも、僕はあれがあいつだなんて信じたくなかった。
だからフェンスの向こうの地面を見なければいいのに、僕の体はゆっくりフェンスに近づいていく。
見ちゃ、ダメだ。
見てはいけない。
そう思っているのに、僕は見てしまうのだ。
ぱっくり割れて、中からぐちゃぐちゃした液体と固形物がはみ出している頭を。
生きているのならあり得ない方向に曲がった手足を。
地面に広がり染み付く赤い液体を。
歪んだ形で固定されたかのような、六郷の顔を。
「うわあああぁぁぁぁぁああ!」
叫んでいる時、六郷から一瞬目を離した隙に六郷の死体は血だけを残して消えていた。
そして、後ろから気配を感じる。
僕は、ある予感とともに振り返って、叫んだ。
さっきまで倒れて死んでいた六郷が、びちゃびちゃと音を立て剥き出しの骨をさらしながら、僕へこう言ったからだ。
「気づいてほしかった」
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