2.悪夢は必ずしも悪だと限らないのである

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「うわぁぁああ!」  自分の悲鳴で目が覚めることなんて、初めてだった。 いや、それは嘘だ。 気づいていないだけで、寝ている時に悲鳴を発していることなんてたくさんあったのだろう。 家族から心配されるくらいには、僕が毎晩こんな夢を見ているという印はあったはずなのだから。  毎晩この夢を見て、目が覚める。 怖い夢だが、自分が気づいてあげられなかったことを後悔していて、この夢を見ることがわかっているからこそ夢を見たくないとも言い切れない。 六郷をクラスメートと同じように忘れていくのが怖いのだ。 だから、たとえ僕を責めている夢だとしても見続けて構わないと、そう思ってしまうのだ。  学校へ行くと、僕の隣の席には十六女さんが何をするでもなく座っていた。 僕もクラスで一番なんじゃないか、というくらい早く登校したので十六女さんがいるのは驚きだった。 だから、また聞いてみようと思った。 「十六女さん、僕と十六女さんって会ったことあるかな?」 「ナンパですか?」  ナンパと聞かれて、一瞬何のことかわからなかったが、「どこかで会ったよね?」と聞くことがナンパの常套手段だということを思い出して理解した。 そう思われたからこの前も無視されたのか。 「違います。本当に、十六女さんを見たことがあるような気がして……」 「気のせいですよ」 「でも、それじゃあ」  夢の中に出てくるわけがない。 僕はそう言おうとしたが、さすがに止めた。 でも、十六女さんが夢にいた気がしたのだ。 それも、親友が自殺するあの悪夢の中に。 髪がなびく姿を、なびいた髪を、見たのだ。 おかしいと思ったが、夢の中で前から見たことがあったなら、既視感の説明がつく。 だけど、今まで会ったことのない人が夢に出てくるわけがない。 だから、どこかで会わなかったか聞いたのだけど。 「本当に会いま──」 「しつこいですよ」  そうきっぱり言われたのと、他のクラスメートが来たのもあって、僕は聞くことを諦めた。 同時に、ここまでむきになっている自分も珍しいな、と自嘲した。 きっと、六郷のことだからだろう。 何もできなかった代わりに、こんなことをしているのかもしれない。
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