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気づくと、夜の学校の屋上にいた。
空には少し削られた満月が、屋上には人影がある。
ここが学校の屋上だとわかったのは、緑のフェンスと周りの景色のためだ。
そして、人影は虐められている人と虐めている人に別れていて、制服を着ていることからたぶんこの学校の生徒なのはわかるけど、誰だかは近寄らないとわからない。
僕がここにいる理由も含めて聞こうと近づいた。
が、僕は結局別のことを聞くことになってしまった。
「……六郷を何でいじめてるんですか?」
六郷がいて、退学になった先輩がいて、天文部恒例の星座観測会をしていることで、僕はここが夢だと気づいたからこそ、落ち着いて聞けた。
先輩たちは逃げていった。
でも、それはどうでもいい。
僕はこれから起こることがわかっていて、僕はそれを止められないとわかっていることの方が重要なのだ。
「六郷、やめろ」
「気づいてほしかった」
「やめろ!」
「気づいてほしかった」
「お願いだ、やめてくれ、謝るから!」
「気づいてほしかった」
フェンスを乗り越える六郷。
呼び掛けても、止まってくれなかった。
フェンスの向こう、屋上のへりに立っている六郷へ呼び掛けようとしたが、そこへ風が吹いた。
そこで、六郷の男子にしては少し長い髪がなびいて、なぜか十六女さんのことを思い出した。
そして、僕はつぶやこうとした。
「十六……女さん!?」
ろ、とまで言ったところで驚いて声が大きくなってしまった。
なぜなら、目の前に十六女さんが現れたからだ。
低い位置で二つに結っていた髪を、今はほどいて風になびくままにしている。
フェンスの内側、僕とフェンスの間にいきなり現れた。
ここは僕の夢。
だけど十六女さんが僕の夢に出てくる理由がわからなかったのは、不思議ではないだろう。
仮に十六女さんが夢に出てくるのだとしても、それにしては十六女さんはリアルすぎる。
髪をおろしたところも、十六女さんの何の感情も持っていないような顔も、僕は見たことがない。
だから、こんな十六女さんがいるのはおかしい。
「何で、いや、え、どういう──」
「やっと入れました」
十六女さんはそう言って、周りを見渡すとフェンスの外にいる六郷に気づいたみたいだったが、何も言わなかった。
僕は、驚くばかりだった。
「え?」
「和久田香さんですね。十六女貘と申します」
「それは知っているけど」
「これは知らないでしょう」
そう言うと、十六女さんは変身した。
そう、まさに変身したのだ。
十六女さんはまるで別人のように雰囲気が変わり、風が僕と十六女さんの間に吹いたように感じた。
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