最悪の知らせ

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 今日は巨大な欧風鉄筋造りの豪華絢爛たる白亜の豪邸で親友の卓生君と遊んだ、その帰りの黄昏時、慶太はアパートへ向かいながら生まれ育った赤童子町の風景を眺める自分をいつまでも当たり前のこととしておきたかった。秋の夕日に溶け込んで飛ぶ赤とんぼのように周囲に溶け込む自分をいつまでも当たり前のこととしておきたかった。  アパートに帰ると、慶太は妙に落ち着いた。生まれ育ち馴れ親しんだ質素で粗末なちっぽけな部屋。自分が幼少の頃、悪戯ばかりして何度も張り替えられた襖や毎日、踏み鳴らした年季の入った畳や色んな匂いと汚れが染み込んだ色褪せたカーテンやお菓子のおまけで付いて来るシールが一杯貼られた家具類や蓄積された沢山の安価な玩具や日頃、目を楽しませてくれる様々な地味な置物、それに自分のデスクに博之(弟)のデスク。押入れの横の床の間の様なスペースには画面が18インチしかないが、なりは箪笥の様に大きくて、どっしりとしている大好きなテレビが有る。それとは対照的に板切れの様なぺらぺらな玄関ドアの内側の一面には自分が幼少の頃、クレヨンで落書きした仮面ライダーV3が息づいている。嗚呼、思い出の詰まったこの空間。やっぱり僕はここが良いとつくづく思った。が、そのつくづく良いと思う所で、いつもの日曜日の様に一家団欒で夕食を取っていると、父の進から思いも寄らない事を聞かされた。
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