『躾人』異世界へ行く

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 まず最初に正式に(表通りで)商売している奴隷館に向かった。 「どうも、お邪魔します」 「いらっしゃいませ、お客様。私、店長のシュルルクと申します。本日は奴隷のお買い上げで?」 「ジルです。本日は売りに来ました」  店に入ると奥から身なりのいい小太りの中年男が出てきた。 「左様ですか。では、こちらへどうぞ」  互いに自己紹介をして裏に案内される。椅子を勧められ腰掛けるとすぐさま商談に入る。 「商品はこちらなんですが、調教はもう済んでます」 「どれどれ、少し失礼します……ふむ、素晴らしい調教だ…ただいかんせん歳が……」  シュルルクは村長の目を見て反応を見て、そして健康状態を見て言った。 「それは承知してます。今回はただでお渡ししましょう。その代わりに今後も買っていただけませんか?」  ジルがタダで…、と言った瞬間に商人の表情が険しくなった。ただより高い物はないと言うことだ。 「無償…ですか?私もこんな商売ですが商人です。リスクのある取引はしないタチです。お引き取りください」 「まぁ、そうですよね。それではお宅の商品を1つ買わせて頂きます。そのお礼と言いますか…お試しと言う形で貰ってはくれませんか?」  暫くは渋っていたが、この店の一番高額な奴隷と殺処分寸前の奴隷を色を付けて買うことで受け入れてもらった。 「どうもありがとうございました」  新たな奴隷を引き連れ店を出る。  新たな奴隷は両方とも女。1人はある大きな部族長の娘らしく、容姿端麗で多彩の25歳。もう1人は敵国の捕虜。情報は絞り出され価値が無くなったため奴隷に落ちた。  こちらも容姿端麗で多彩だが、祖国の情報を売った為に裏のある貴族は買いたがらない。普通の貴族に至っても派閥などがあるため、手放す時に情報を持ち出されてはたまらない…とこちらも買わない。  さらには敵国兵であるためや、その値段の安さゆえの曰くが有るのではないかと、その他の人も手を出さない。  その結果いつまでも生かしておく必要はないと判断され殺処分が決まっていた。そんな折に現れたのがジルである。 「それじゃあ、改めて自己紹介といこうか。僕の名前はジル、ジル・オーエンズ。色々と極秘なこともあるからそれは家に着いたら教えるよ」 「わかりました、ご主人様。私たちはなんと名乗れば宜しいですか?」 「ん?名前は?」  奴隷に落ちた者は前の名前を捨てることになる。そして新たな名前は主人によって付けられるのが基本だ。 「なるほどねぇ。じゃあ君はセルフィー。愛称はセラ。君はアイリス。うん、無難でいいんじゃないかな」 「「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」」 「それじゃあ、次は闇市かな」  新たなお供を手に入れたジルは、道すがらあらかたの素性を語る。  もちろん安全マージンとして洗脳は済ませてある。 「な、なるほど…ご主人様は闇ギルドのような方なのですか」 「ん〜、まぁ、言っちゃえばそうなんだけど……そのうち嫌でも分かるよ」  2人とも引いたような感じだがジルは気にしない。 「2人が素直なら君たちを売ったり殺したりすることはないと誓うよ」 「ぜ、絶対に従います!」 「わ、私も!」  少しの殺気とほんの少しの狂気を混ぜ、瞳から光を消す。内臓がグチャグチャになる様な感覚を感じ、崩れ落ちそうになる2人。  初めて味わう恐怖と底の見えない闇を感じた2人は吐気を催す。そこをグッと堪えて血の気が引きすぎてクラクラするなか、何とか言葉を発した。 「……………」  そのまま数秒間見つめられる2人はあまりの恐怖に、諦めの境地に入ることも許されない。 「こんなとろで突っ立ったんじゃねぇよ、どけ雑魚ども」  それなりに人通りのある所で5人が固まっていれば通行の邪魔になる。人通りが多いと言うことはいろんな性格の人がいる、気性の荒い冒険者とか……。 「きゃ!」 「ひゃ!」 「おっとっと」 「くっくっく、ざまぁねぇな!」  セルフィーとアイリスがぶつかった拍子に倒れそうになる。デジャブを感じるがジルがそれを受け止める。  ぶつかった張本人は嘲笑いジルを見る。 「危ない危ない……ふぅ、そうですね。確かに僕たちがここで立ち往生していたのが良くなかったです。だからと言ってわざとぶつかってくることもないでしょ?」 「わざと?ははは!こりゃ傑作だ!いつ誰がわざとぶつかった?気が付かなかっただけだよ、お嬢ちゃん?」  ジルに受け止められた2人は緊張の糸が切れ気絶してしまった。どこからともなく現れた双葉(28)に2人を預ける。  言い争いが始まると彼らの周りに野次馬が集まり始めた。 「ほぅ?あくまでも故意ではないと?それと僕は男ですよ?」 「はぁ?男だぁ?はっ!嘘はよくないなぁ、お嬢ちゃん。それでも男だと言い張るなら裸になって見せろよ!なぁみんなぁ!」  論点のすり替え…と言うよりは本当に女だと思っているようだった。挙げ句の果てには観衆の前で裸になれという始末。  さらには野次馬に囃子立てるように問いかける。 「そうだ!どこからどう見ても女にしか見えねぇぞ!」 「男だと言うのならシンボルをみせろやぁ!」  などなど男たちの醜い雑言が飛ぶ。この騒ぎを聞きつけた老若男女が集まり始め、仕舞いには警ら隊や騎士団の人間も野次馬となった。 「わかりました。そんなに見たいのならお見せしましょう。そこまで言うのですから脱いだところで猥褻罪云々で捕まえるとかは無しですよ?」  ジルはそう言ってから答えを待たず、ゆっくりと上から脱ぎ始めた。 「おぉ、胸は無いな」 「いや、貧乳なだけさ!俺の女と同じで」 「なるほど」  野次馬たちは口々に推察を話し始める。 「ふん、あんたのヤツなんか小指の先くらいしかないじゃない」 「うぐっ!そ、そんなこたぁねぇよ!俺は馬並みだぜ?」  所々で似たような痴話喧嘩が始まる。  ズボンのベルトを外したジルは下着毎一気に下ろした。 「…こんな趣味ないんだけどなぁ」 「……な、なんだあれは」 「…すごく、すごく大きい」 「…馬並み……いや、オーガ並みだぞ!」  自分の一物に自信のあった男たちがこぞって砕け散る。ジルの持つそれはあまりにも立派過ぎたためだ。  淑女の皆々様は両手をパーにして顔を覆っている。  しかしさらに驚愕の事実に直面する。 「これでいいでしょう?じゃあ履きますね……あ、ちょっ、ちょっと待ってイキ(2)、ダメだって」  待機状態だった大砲が砲撃手の手により発射準備に入ったのだ。  イキ(2)が透明なのをいいことに、観衆の前でお世話を始めたのだった。その結果、大砲の射角は鋭くなっていく一方である。 「うそ!」 「まじかよ!」 「ちょっ、ダメだって!あっ!」  観衆の面前でとうとう大砲の導火線に火がついた。  十分後には空中に白濁とした液体が止まっていた。 「やばい、逃げなきゃ」  ジルは服を着て4人を回収して屋根に飛び乗った。 「なんでこんなことになったんだろう」
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