『躾人』異世界へ行く

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 先ほどの騒動から30分ほどがたった。逃げる時に咄嗟に振り撒いた特製の薬、これによりジル達の顔は綺麗に忘れられてる。  現在はスラム街にある闇市を目指して歩いている。  本来表の住人が闇市で売り買いする場合は専門のブローカーがいる。まぁ、もちろんそんなものは違法な為依頼料が高いのもいる。  しかし、中には前金として報酬の半額、そして軍資金又は、売上金や売り物そのものを持ってとんずらするものもいる。 「お、賑わってきたな」  スラム街の重く陰鬱な空気に表面上だけの活気が混じる。  それはとても不快なもので普通の人間なら耐えられないだろう。 「ここはまた……闇市とは名ばかりじゃないってことがわかるなぁ〜」  ここは表と違う為いつ殺されるかわからない。表面上はニコニコしているが、誰もがその身に狂気と凶器を纏っている。 「ここなら気配を抑えなくてもいいかな」  前方からひょろひょろの男が笑顔を浮かべながら歩いてくる。十中八九カモが来たと思ってのことだろう。 「ふぅ」 「ひぃ!」  ジルが気を抜くと(・・・・・)眼に見えない闇が闇市を覆う。  男が悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。 「あれ?なんかみんな顔が強張ってない?ま、いっか…ねぇ、そこのお兄さん、奴隷館ってどこにある?」 「あ、あっちにあるぜ。『指切り人形店』って店だ」  誰のせいだと思っているのか、白々しい態度を取り、近くにいた男に話しかける。  男は額に大量の冷や汗をかきながら奥の方を指差す。 「それは何とも心躍る店名だね、ありがとう」  店の名前を聞いたジルは目を輝かせて1万Gほど入った包みを握らせる為に近づく。  男は立ったまま気絶してしまった。  闇の住人までもが恐れ慄く狂気を、傍迷惑にも振り撒き楽しそうにキョロキョロとしながら歩く。  店は一目でわかった。なんたって本物の人差し指が大量に吊るされていたため、丸わかりであった。  店の扉を開ける。 「…………」 「ども〜。店、やってる?」 「…………」  中にいたのは血塗れの美少女。端正な顔立ちに長い前髪からできる陰が、なんとも言えないエロティックさを醸し出している。 「おや?お客さんですか…いらっしゃい、『指切り人形店』ようこそ」  奥から現れたのは至って普通の男だった。年は30代の半ば位だろう。ただし手に持っているものは普通じゃなかった。  血が滴り、その鮮度は切り落としたばかりの新鮮なものであるのが分かる人差し指だった。  紐に括り付けられたソレは第二関節あたりで切られたらしかった。 「今日は売りに来たんだけど、いいかな?」 「えぇ、えぇ…少々お待ちください、今片付けますから」  店主はそう言うと店を出て指を括り付けた。 「はいはい、お待たせいたしました。それではこちらへ」  店主の案内で裏へ通される。 「どうぞお掛けください。それで、本日は売却との事ですが、どれを?」 「この欠損している物を売ろうと思って…恐怖で言うことを聞かせているだけで特に何もしてない状態で…」 「ほぉ……おやおや?鼻と耳がなく顔が腫れてるからわかりにくかったですが、コレは『自称、家宅捜索のツインズ』じゃないですか」  5秒程凝視した店主は大袈裟に驚く。  『自称、家宅捜索のツインズ』とは、それなりに名の通った連続強姦殺害凶悪強盗犯の通り名である。  基本的には表のスラム街に近い家を荒らすが、時たま闇市の露店を荒らすことでも有名である。厄介なことにそれなりの実力を持った2人組な為、なかなか手を出せないでいた。 「どうやら貴方は敵に回さないほうが良いタイプの人間ですね。次回からも取引させて頂けるようでしたら此方としても嬉しいのですが?」 「ふむ、そうだねぇ〜、ここを贔屓にすれば次からは天井裏の人を引っ込めてくれるかな?」  『指切り人形店』にとって利益となるこの男を放っておくわけにはいかなかった。  そして、ジルの切り返しは何通りか予想していたうちの1つだったため、実力はあっても頭はあんまりか…と思う店主。もちろんそんなことはおくびにも出さないが……。 「それと、真下に控える人と向かいの露店を開いている人も…」 「ほぅ、そこまでお気付きで…わかりました」  店主は表面上少し驚いた振りをしたが、これくらいは予想の範囲内。  このタイミングで先程の少女が紅茶を持って現れた。  綺麗な動作で紅茶を置くと下がっていく。 「この紅茶は高級な茶葉を使ってます。どうぞご賞味ください」  この紅茶に自信があるためか、とても良い笑顔で勧める。
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