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「うーんと、次は君の指で絵を描くこと、だったかな!うん、そうに違いない!…そうと決まれば善は急げだ!」
そう言うと男を再び椅子に縛り上げた。口に布を詰め舌を噛み切らないようにする。開口器でもいいが着け外しがめんどくさいため布を詰めている。
あとは出血死しないように熱々に熱した鉄の棒を用意して、火も近くに着けておく。さらに安全マージンを取るため腕をゴムチューブで締め付ける。
「これで良しっと!本当なら興奮して血液の流れが速くならないように鎮静剤を打ちたいんだけど、それじゃあ痛みは少なくなるだろ?」
縛り付けられたところで状況を把握した男は体を揺らして逃れようとする。
されど椅子は地面に打ち付けられており、体はきつく縛られている。
「ふん、ふふふん、ふーんふふん」
『躾人』は近くの引き出しを開けテーブルの上に刃物を取り出す。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な…き、み、の、う、ん、め、い、は…は、せ、が、わ、た、つ、よ、し……これだ!」
古典的な、けれども一度は誰しもがやったことがある選び方をする。少しアレンジが加わっているが……
長谷川辰吉とはこの縛られている男の名前。
「おぉ!よく研いである出刃か!よかったね!」
そんな方法で選ばれた物は出刃包丁。良く研がれており切れ味は抜群だろうことは調理師の卵でもわかるほどだ。
「先ずは〜手指の洗浄をして、包丁洗って、アルコール消毒!…そして食ざ…じゃなかった、絵の具も消毒してーっと、細菌が入って死んじゃったら面白くないもんね」
よく手入れがされていることがわかるシンクで消毒を進める。絵の具の方も消毒して準備が整った。
「そんじゃ、小指の第一関節から行くよ!せーのっ!」
振り上げた包丁を小指の第一関節から少し外して落とした。
「ぐぶぅ!?」
体をビクン!とさせて呻き声をあげるが指は切り離せないない。
「あぁ…ぃぃよ〜、その甘美な響きはとっても心地よい」
うっとりとした表情で骨に当たった包丁を引っこ抜く。その時に呻き声をあげたのは言うまでも無いだろう。
硬く脆いという矛盾したものが骨だ。「折れず、曲がらず、よく斬れる」とは日本刀のことだが、骨に似ている。「折れず」というのは柔軟性があり折れにくいということであるが、「曲がらず」というのは硬くないと曲がってしまうということである。
叩いたり折ろうと思えば簡単に出来てしまう骨だが、切断しようとするととても硬い。
魚の兜割などをしたことがある人ならわかるだろう。
「もう、いっかいっ!」
ガス!と音を立ててまたもや骨に突き刺さる。口に詰められている男はくぐもった声を上げる。
「ふふふ、実はわざと外してるんだ〜。やろうと思えば一発で、しかもそんなに痛く無いように切り落とせるけどそれじゃつまらないよね?」
その言葉に目を見開いて顔面が蒼白になっていく男。
男の額から出た大量の脂汗が、涙が、鼻水が結合して水滴となり、こめかみ、頬、顎をつたって膝の上に垂れる。
「指を切り落とすのなんて簡単さ!だって関節を切るように刃物を入れていけばいいだけだからね。動物を解体したり、料理する人ならわかると思うよ?」
「ぶぅぶぅ」
「あはは、なんだい?何か言う気になったかい?」
男が懇願するような目つきで『躾人』を見る。
「ま、もう手遅れなんだけどね…実は情報は君のお仲間さんが“イイナ”に食べられる前に吐いたんだよね〜。そのお仲間さんも結局は“841”の玩具になったけど」
その瞬間男は理解した。
結局のところ何をやっても助からない、この男のオモチャとなり殺生与奪も握られていて、自殺すら出来ないと。
そして又指切りが再開される。
「ふう、完成した。うん、我ながら素晴らしい!タイトルは『祭り』」
当初白かったキャンパスは赤黒い絵の具で殴り描かれていた。それはまるでキャンプファイアのような絵だった。
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