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「ショウガをお願い」
「それだけ?」
ショウガだけ買いに自転車に乗って駅前の商店街まで行くのは面倒だ。
「豚肉のショウガ焼きを作ろうと思ってるの。でも肝心のものがないとねえ」
それなら仕方ないか。ついでにアイスでも買って食べよう。お小遣いも貰えるだろうし。
「行ってくるから、お金ちょうだい」
わたしはダッフルコートを手に取った。紺色の学校にも着て行っているものだ。今日は天気が悪く肌寒い。少し時期が早いがこれを着て行こう。下はデニムだが気取る必要はないだろう。
自転車に乗って、商店街へ向かう。外はもう薄暗かったが商店街は明るく、電気が煌々としたアーケード通りだ。魚屋のおじさんがガラガラ声で値引き品の案内をしている。我が家の近くは昔ながらの店が連なって暖簾を飾っている趣のある風景が並ぶ。ゆっくりペダルを漕いでいるとコロッケ屋さんのガラスケースがわたしの空腹を増長させた。見て見ぬふりを決め込み八百屋さんに向かう。そこは商店街の端にあって、ネギや大根、白菜などの冬野菜が店頭に並べられていた。
「すみません、ショウガ一袋ください」
わたしは既に片付けを始めているおばさんに声をかけた。
「ショウガだけでいいの?」
「はい、いくらですか?」
「200円よ」
ポケットから財布を出し、ファスナーを開ける。小銭が入っていたが10円玉と1円玉ばかりだ。わたしは千円札を申し訳なさそうに渡した。お札を入れるところにはレシートが数枚重なっていた。何気なくレシートの明細を見ると、本屋さんのものが多かった。何の気なしにまさぐって中を見ると参考書の名前が目に付く。
弟に買ってあげてるんだ。突如とそれを察知して嫉妬心がモクモクと浮かんでくる。わたしは決められたお小遣いの中から自分でお金を捻出して参考書類は買っている。そりゃあ、男の子のほうが良い大学に入らせたいのは解るが、こんなの不平等だ。
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