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「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」
お父さんが両手を広げてわたしと弟の肩を抱く。やっぱり家族が仲がいいのが一番だ。いつもスマートフォンでゲームばかりしている弟の気が知れない。
「お父さん、ハルオは細いねって言ってたの」
「ああ、でも高校にあがってだいぶ逞しくなったよ」
お父さんはそう言うと、リビングからキッチンの中に入った。我が家はオープンキッチンなのでカウンター越しに中の様子が丸見えだ。お父さんは冷蔵庫を開けてビールを取り出す。500ミリリットルの大きな缶だ。確か昨日も飲んでいた。
「飲み過ぎじゃない?」
「う、そうか?」
お父さんはつらそうな顔をする。折角のお楽しみなんだから寛容深く、見逃してあげるべきか。
「まあ、毎日じゃなければいいか」
わたしは心が狭いのかもしれない。弟のゲームに関することにしろ、お父さんのビールの飲酒問題にしろ。みんなが寛いでいる場所だからこそ好きなことをやらせてあげた方がいいのかも。自問自答してからちょっと反省する。お母さんは気にも留めない様子で「今、つまみを出しますよ」と言った。すぐさまチーズがテーブルに乗る。わたしはピザの上に乗っていたり、グラタンの上のチーズは大好きだが単体で食べたいとは思わない。お父さんが銀色の紙を剥いて白いチーズを口に入れる。
「美味しい?」
「ああ、ビールにはチーズとか枝豆はよく合うよ」
そんなものなんだろうな。でも以前お父さんのビールの泡を少しだけ舐めたら苦くて、何処が美味しいのか首を傾げたっけ。味覚は変わるっていうから、大人になれば好きになるのかもしれないな。
「なんだ、ユリナは今日は難しい顔をしてばかりいるな」
「そう?」
わたしは慌てて笑顔を作った。なんだか引き攣った笑いのような気がした。
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