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わたしは肩を竦めて階段を降り、キッチンのカウンターが前にあるテーブルの椅子に座った。そこには美味しそうなサラダに目玉焼き、ウインナーが焼かれていた。グルグルとお腹が鳴る。弟も隣の椅子に腰かけた。
「なんで、昨日眠れなかったの?」
わたしはフォークでトマトを持ち上げる。
「それは、決まってるだろ、学園祭の劇の脚本だよ」
「そっか。でもミステリーって決まってるんでしょ」
「犯人をさ、僕の好きな子にしたいんだ」
えっ、何て言った?わたしは目を丸く見開いて弟の顔を見た。
「なに、ビックリした顔してんだよ」
「だって、ハルオったら好きな子いるの?」
「ああ、それでさ、劇の練習をしながら仲良くなりたいと画策を練っているんだ」
「えー、それって卑怯じゃない、立場を利用するなんて」
「何が?」
弟はキョトンをしてからウインナーを口に運ぶ。油が唇に付いてギトギト光る。咄嗟に自分の唇が気になってテッシュで拭う。弟にも「はい」とテッシュを渡した。
「なに、どしたの?」
「油が口に付いてリップグロスを塗ったみたいになってるよ」
「マジ?」
「ウン、そのまま学校行ったら笑われちゃう」
わたしはクックと笑った
「サンキュー、教えてくれて。好きな子に見られたら大変だもん」
「好きな子かあ。今日、学校から帰ったら続きの話を聞かせてよ」
朝はバタバタ忙しいので、男女関係の話なんかしている余裕はない。夜になったらじっくりと聞かせて貰おう。
高校は電車で2駅乗ったところにある。着いてからは10分ほど歩きだ。通学路は同じ紺のブレザーを着た学生がたくさんいて、みんなの笑顔が歩道を埋め尽くす。
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