喰われるって

1/1
前へ
/12ページ
次へ

喰われるって

「何やってっ、ぁあああっ」  電気に痺れたような痛みじゃない何かが胸に一気にきて一際大きい声が出てしまう。 「何って、あんたの乳首を噛んでみました。どう?」 「どどどどうって」  高梨が聞くけど「いや、びりびりきましたよ。ははは」とか言えるわけない。 「止めろって言ってんだよっ、変になるだろ」  言ってしまってから、最後の一言は要らなかった事に瞬時に気づいたがもう言葉は戻って来ない。目の前の高梨が顔を上げて嬉しそうに笑う。 「変になったの?」  笑うなよと高梨の顔を見ると満面の笑みだ。いつもの怖そうな冷たい顔なんかじゃ無い。バイト中の愛想笑いとも違う。なんていうか、小さい子どもみたいな無邪気で楽しそうな可愛い顔だった。 「何、俺の顔じっと見てんのさ。そんなに俺の顔好き? あんたの好きな顔が今から何やるのか知りたい?」  何で可愛いなんて思ったんだ? ジギルとハイドみたいに瞬時に天使は悪魔に変わった。今の顔はいつもの極悪な不良顔だ。知りたいかと聞いたくせに人の返事もそこそこに手が体を撫でながら下に降りてハーフパンツの中に入ってきた。 「ぎゃあああ、何すんだよ、エッチ」  思わず女の子みたいなリアクションを取ってしまう。 「何だよ、それは」  高梨がくすりと笑いながら、耳元で囁く。 「そうだよ、これからエッチな事すんだよ。覚悟しろよ、司」  ――なんの覚悟だ? という質問はできなかった。僕の中心を高梨が握ったからだ。 「いや、やめっ。お願いだから」 「何? いつも自分でやってるだろう? それが俺の手になっただけだろ」  だけなんかじゃない! 自分でやんのと、まるで違う。大きな手のひらが僕のものをあっさり手の中に入れて根本から緩急をつけて揉みしだく。体が勝手に跳ねるのを止められない。 「ちがっ、違うよ、全然……止めてよ、ああああんっ」 「そんな声上げてるくせに、止めていいの」  今までと違ってちょっと掠れた声の高梨を見ると、目がぎらぎらしていて怖くなる。捕食される動物みたい嫌々と首を振った。  喰われるってこういう気持ち? 「たか…なし…怖いっ」 「うるさいっ、俺今答える余裕無しっ」  口を口で塞がれて片手は胸を揉まれて、反対の手は……。もう、何も考えられない。ただ、覚えのある射精感が襲ってきて高梨の背中にしがみついた。 「で、出そう。もう無理っ。止めてっ」  すると、あっさりとすっかり立ち上がったものを高梨は手放す。そう、望んだはずだったのに、ひどくショックを受けて高梨を見上げる。 「だって、俺も限界だし。あんたのエロ顔想像以上」  想像してたのか、と思ってる僕の前でカチリとベルトを外す高梨を見ている間がいたたまれない。ジッパーを下ろして奴が取り出したものを見て、いきなりこれから何が始まるのか心配になってきた。  だって僕のに比べて……でかい。これって、これって。 「な、何? 何をするんだ」 「最後まではしないよ。今はね」 「最後ってなんだっ! 今はって、何?」 「いいからさっきみたいに良い子にしてろ、司」  またも口を塞がれて今度は高梨のと一緒に握りこまれる。高梨のは、すでに固くなっていて熱く脈打っている。それが僕のにこすれると電気がショートしたみたいにびくびくと衝撃が襲う。 「これが俺。覚えとけよ、司。今度は最後までやるから」  荒い息づかいで耳元で言われて頭がぼうっとしてうんうん頷いていた。胸にあった高梨のもう片方の手も下りて来て、二人のものを重ねたまま、激しく上下に扱かれる。どちらの鈴口から出たものかもう判別できない液体でぬちゃぬちゃという水音が響き、口からは、形の無い喘ぎ声しか出ない。 「もっ、イッちゃうっ」  僕の悲鳴めいた言葉を聞いて高梨が僕と高梨のものにテッシュを被せる。そして高梨の手の中に白い欲望の果てを吐き出した。そのあと、高梨のうっという声と、どくどくと震える高梨の物が触れる感触で、彼もイッたんだと分かった。 「ちょっと…起きるの待てよ、司」  情事の余韻の残った掠れ気味の声で僕を制止した高梨が、さっき被さってきたもので僕の中心を拭う。そんな余裕を残している高梨が憎らしい。  綺麗にしなきゃあと言いながら高梨は、手を出した僕の手をあっさりと払いのけて丁寧に拭う。そしてあろうことか、自分の手についた僕の残滓をこれ見よがしに見せてくる。 「なあ、気持ち良かったろ? こんなに出しちゃってさ。濃いよね、自分であんまりやらないの?」 「知るか、早く手を拭けって」  顔が赤くなってるはずの僕にわざと見せつけるように高梨はにやりと笑ってその手をべろりと舐めた。 「苦い」 「あったりまえだろっ、おまっ、何やってんだよっ、信じられない」  絶句する僕に「あんたの味を覚えとこうと思って」とけろりと言う高梨の顔は壮絶に綺麗なんだけど。淡い色の髪が昼間の光りの中で祝福されたようにキラキラしているんだけど。  その天使はエロで凶悪な性格だった。 「おい、松本? あれ? 鍵がかかってる?」  そこにがちゃがちゃと戸を開けようとする音と多田の声がして、ここが保健室だった事を思い出して背筋が凍った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

355人が本棚に入れています
本棚に追加