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ハードな撮影を終えてさんざん眠った。目を覚まして、まず思った。
優に会いたい。
急激に水の底から浮き上がってきたかのようなその想いに、たちまち流の身体は支配された。眠っている間、何度か目を覚ましたのをぼんやり覚えている。寒いような、物足りないような、そんな気がしたが疲れには勝てなかった。
あれは、欲していたのだと思う。ようやく訪れた休息を、より深く安らかなものにしてくれる存在を。
好きで、一緒にいたかったらいりゃいいんだよ。それだけなんだ。それさえできりゃいいんだ。
この前の隼人の言葉が、眠っている間にごく自然に身体に溶けこんでいる。優の過去にこだわり、悩む自分のままでいい。
とにかく、優に会おう。
よく眠ったせいか爽快な気持ちで、流は顔をざっと洗い、部屋に脱ぎ捨ててあった服を着てぼさぼさの髪は帽子で隠し、無精髭もそのままで部屋を出る。
最悪、優は会ってくれないかも知れない。もう一ヶ月、優からの連絡になにも返していないのだから。
ひどい男だ。こんなひどいことをしたのは初めてだった。それも本当に優のことが好きだからだ、なんて言い訳は、きっと鼻で笑われる。それでいい。当然だ。
それでも、とにかく一目優の顔を見たかった。どうせ失うなら、その痛みは優の手で刻まれたい。
流は枕元のスマートフォンをつかんだ。震えそうな指で操作し、優に電話をかける。優は出ない。取るぞ、と隼人は言った。あの時の表情がよみがえる。
まばゆい、強さ。
「とにかく、行こう」
つぶやいて流は、大きな道に出てタクシーを拾うために駆け出した。
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