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部屋があるフロアで降り、玄関のドアを開けて中に入ると、その場でどちらからともなく抱きあい、キスした。
本当に簡単なことだった。ただこうして会うだけでよかったのに、それがどうしても怖くて、できなかった。
優の長めに伸ばした髪。いつもの香水の香り。自分よりも細い腰。何度も確かめるようにしながら、流は優のコートを肩から滑り落とすように脱がせる。
コートを脱がされ、抗うどころかますますきつく全身を密着させるように抱きついてくる優。
「あのさ、やっぱ、ここじゃ寒いし……」
優の欲情を腰に感じて、途端に流は真っ赤な顔で狭い玄関先をきょろきょろと見回す。スニーカーの箱が玄関を上がってすぐの隅に積み重ねられ、備えつけの靴箱の上には、いつ置いたか分からない芳香剤があるだけ。殺風景で床は冷たい。
「でも俺、このままここでしたい。もう待ちたくない」
まっすぐな瞳と濡れて艶っぽく光る唇が、至近距離にある。上目遣いの瞳が、心なしかだんだんと潤んでくる。
「そういうわがまま、初めて言ってくれたね」
まぶしく笑う流に、優は首をかしげた。
「そう?」
「うん、でも悪いけど、それは聞けないな」
「わっ!」
流は優をいきなり横抱きにすると、急ぎ足にベッドへ運んだ。抱き上げ方も不格好で、二人で笑いあう。
「ごめんね、いまいちムードなくて」
さすがに、いくら優が細身とは言えゆっくり運ぶほどの腕力は流にはなく、下ろし方も少し乱暴になった。
「だけどあんなとこで抱いて、風邪ひかせるわけにはいかないし」
流の首に回ったままの腕に、ぎゅっと力がこもる。
「流ちゃん、好き。好きだよ」
ベッドに倒れこみ、またキスをする。優の首筋に舌を這わせ、流は右手で胸の突起を探った。
「あっ……」
服の上からでも分かるとがり。流が耳を食むようにしながら執拗になでると、しなやかな背中が流の腕の中で反り返る。
「ホントはここでしたいって言われて、すげえ興奮した」
耳もとでささやく声すら優を刺激するのか、つややかな吐息が漏れる。
「俺も、あんなこと初めてだよ……」
優の声は、すでにとろけかかっている。もうお互い、欲望を止められそうもない。きつく抱きあい、深く浅くキスしながら互いを求めあう。
「はっ、あ、ああっ!」
優の肌を這い下りていった唇が、すでに限界まで勃ち上がっている優自身をゆっくりと包みこんだ。卑猥な音が響く。
「流ちゃん、ダメ……、俺、イっちゃうっ……」
いつまでも続きそうな丁寧な愛撫に、とうとう優は音を上げた。
「イっていいよ」
つぶやき、流は優の欲情の形を味わうかのように、ねっとりと優のそれに何度も舌を這わせる。
「あっ、あ……!」
優が放ったものを口で受け止め、飲みこむ流。そんな流を視界の隅に捉えた優の恥じらいは、まるでこれが初体験のようだ。顔を真っ赤にして身をよじり、目尻には涙がたまっている。
「好きだから、恥ずかしいのかな」
ようやく聞こえる声でつぶやく優。流は優を優しく見下ろしながら、髪をなでた。
「じゃ、もっと恥ずかしいことしてあげようか?」
「えっ?」
優の目に羞恥と共に浮かぶ期待を、流は見逃さない。優のためならなんでもしてやりたい、そんな気持ちになっている。
「これ、好きなんだよね?」
うつ伏せにされ、なにをされるか分かったらしい優は顔を両手で覆った。
「表情が見えない代わり、声聞かせて」
流は優の引き締まった小さな尻に両手を添え、顔を埋めて最奥を舌で犯し始める。
「あ、あっ、やだっ……!」
舌がふれる度ひくつく、優の最奥。舌先でくすぐる。わざと音を立てて吸う。不器用ながらも、流は思いつく限りの手を尽くしてそこを責めた。
「もう、入れて……」
快感に崩れた声が、流の背筋を転がり落ち、刺激する。
「うん、俺ももう限界かも」
顔が見たくてそっと優をあおむけにすると、優はあわてたようにごしごしと腕で目をこすった。
「気持ちよかった?」
聞けば、無言のまままつげの濡れた、甘えた表情でにらんで見せる。愛しくて、流はあちこちに口づけてから、おもむろに優の最奥に猛りきった自身を押しこんだ。優の内部が流自身に熱く絡み、包みこんでくる。
「は、ああっ、あっ……!」
優のあえぎ。荒い息遣い。しがみついてくる、しなやかな腕。我を忘れそうになる。
圧倒的な快感に溺れ、固く抱きあったまま二人は絶頂を迎えた。
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