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「……流、ちゃん……?」
寝ぼけ声でつぶやく、乾いた唇をふさぐ。しっかり身体に腕を絡める。
「しても、いいよね?」
流はついさっきまでの沈んだ感情を、力強く引っぱり上げた。せっかく優といるのに、いつまでもこんな気持ちでいたくない。
眠くても、優はとろりと舌を出してキスに応えてくる。ほとんど条件反射のようで、自分の知らない過去を思う。そのせつなさは、まるで泡だ。
そんなせつなさも、優の首筋にひそかに残る香水の香りに、音もなく消えていった。優が猫のように身体を寄せてきて、朝勃ちしたそこが流にふれる。すかさず手を伸ばす。
キスしながら、両手を使ってあくまで優しくそこを責めた。優の喉が甘く鳴り、身体から力が抜けて、流は許されたのを知る。
大事に、大事に。まずは一度、高みへ。
達した直後の、半分伏せられた優の瞳。とろりと濡れた視線が、なまめかしく流の欲情を絡め取る。はっと気づいた時にはもう、優は流の脚の間に身体を埋めていて、流はたちまち快楽に熔かされてしまう。
またよぎる過去への嫉妬。結局その苦さを振り払おうと思えば、流にできるのは幾人もの男達に抱かれてきただろうその肌に、優との行為に溺れることだけ。
甘い匂いがしそうな褐色の肌から、涼やかな残り香がほんのわずかにする。消えかけた香りにばかりなじんでいるのは、きっと誇っていいことなのだろう。
でももう、それだけじゃ物足りない。いつもそばで、変化していく香りを、優との日々を味わいたい。
流はうつ伏せた優の前に手を回して胸の突起をもてあそびながら、すべらかな背中に舌を這わせる。
「んっ、んんっ、あ……」
感じやすい身体がぴくりぴくりと跳ね、優は胸をいじっている流の大きな手をすがるようにつかんだ。
「嫌なの?」
そう聞かれた優の横顔がみるみる赤くなっていく。あまり見たことのない反応に、流は微笑んだ。まるで子供のようだ。
「違うんでしょ?」
いたずら心が湧いた流が顔をのぞきこもうとすると、すかさず優はそっぽを向いて枕で顔を隠す。
「顔見せてくれないなら、代わりに声聞かせて」
「え、りゅうっ……あ、あっ……」
流は優の両膝を少し立てさせると、最奥に顔を埋めた。わざと音を立てながら吸い上げ、舌を伸ばしてそこをじかに刺激し、同時に潤す。これまで一度もしたことがない突然の行為に、明らかに優はうろたえた。
「流ちゃんっ、だめ、だめだって、こんなっ……!」
浮く腰、うわずる声。言葉に反してしどけなく、流を求める身体。流よりはるかに経験豊富なはずの優が、まるで初めてのように恥じらい、流の前に崩れていく。
「これが好きなら、言ってくれたらよかったのに」
言いながら流は、愛しさと幸福感に自然に微笑んでしまう。同時に本能的な欲望と凶暴さに突き動かされ、優の腰を押さえつけて舌と指とで最奥を犯した。
「あ、ああっ……! りゅ……流ちゃんっ、あっ、あ……!」
あえぎがあふれて、したたる。汗ばむ肌。息遣いも荒く身体をよじって、流の舌がなぞるたび、そこがひくつく。指の出し入れに、大げさなほどに腰が跳ねる。
優の前に手を回せば、それは今にも達してしまいそうなほど張りつめ、よだれをたらしていた。
「優君ごめん、俺完璧スイッチ入ったわ」
流は優を快感で追いつめながら、自身も欲情に焦がされている。優の張りつめ、濡れている先端を指に感じただけで、背筋がしびれるほど欲情する。
「……うん、俺も……。んっ、ああっ……」
快楽のしずくを塗り広げる流の指の動きに、耐えきれずうごめく腰。流は目の前の、うっすら汗がたまった腰のくぼみをむちゃくちゃに吸い、優のつややかな茶色の肌を食い散らしていく。
「ああ、もう、俺無理っ……」
うわごとのようにつぶやいて、流はすっかり快楽に崩れている優の腰を、片腕でぐっと引き上げた。充分に潤った優の最奥に、限界まで熱くなっている先端を押し当てる。
「あっ」
それだけで、びくりと反応する優の身体。乱れる優の姿を餌に、流の欲情は嗜虐欲と呼べるほどに育っている。
「いい? 入れちゃうよ?」
ぐっと腰を押し出して、ゆっくり優の中に自身を収めていく。快感が全身を包む感覚に、流は素直に身を任せた。欲情の赴くまま、完全に自分の腕の中に堕ちている優を責める。
「う、あ、あ、ああっ、りゅうっ……!」
優は後ろから突かれながら前も責められて、すっかり理性を手放してしまったようだった。卑猥な音と自分が漏らすあえぎに埋もれ、ひたすら流が与える快感を追っているように見える。
「どっちがいい? どっちもかな?」
自分にもこんな意地の悪い部分があったのかと内心驚きながらも、流は自分で自分を止められない。のぞきこんだ優の顔は、汗で髪が頬にはりつき、わずかに赤くなった目の端に涙がたまっている。
「いくっ、いくっ……」
かすれた、切実な声が優の唇からこぼれる。流がより深く優を貫くと、声もなく優の背が波打った。
「顔が見たい」
流は少し乱暴に優の中から抜け出し、優の身体をごろりと返してあおむけにした。されるがままの優の熱い内部に、再び自身を埋めていく。
「んっ、あ、ああっ……」
顔を隠す髪の間から、せつなげに眉を寄せた表情がのぞく。髪を払う手にも、優は無抵抗だった。律動の波に、完全に溺れている。そんな優を見下ろし、流はこれ以上ないほど満たされる。
キスがしたくなった。顔を寄せると、もう言葉にならない声が、流を繰り返し呼んでいるように聞こえた。
「優君……」
呼ぶと、優がぶつかるような乱暴なキスをしかけてくる。身体を絡ませあい、激しく追いつめ追いつめられながら、二人は果てた。
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