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事が終わってしまうと、流は恥ずかしくてたまらなくなった。あんなセックスをしたのは初めてだ。あそこまで激しく、快感が深いのも。
「さっきからずっとうつむいちゃって、どうしたの?」
二人は近所の焼肉店に来ていた。セックスですっきりした後、すきっ腹に焼肉を供給する。ある意味健康的で、欲求に素直すぎる。
「早く食べないと、焦げちゃうよ」
優の声は、いつもより心なしか弾んでいる。それも性欲を満たしたせいだろうと思うと、流はいつになく照れてしまって、空腹なのに箸が進まない。
「三大欲求しっかり満たしたから、今日はきっといい仕事できるよ」
「うわっ!」
言われた流は急に思い出し、思わず大声を上げる。
「なに、どうしちゃったの、いったい?」
「いや、その……」
流は言いよどんだ。予定通りなら、今日は夜の公園だったか遊園地だったか、キスシーンの撮影があるはずなのだ。優とのことを思い出さずにはいられないだろう。うまく切り抜けられるか、自信がない。
流をいぶかしそうに見つめていた優は、焼肉を飲みこむとふいに微笑んだ。
「なんか違うんだよ、流ちゃんさ。なんか違う」
楽しそうに笑いながら首をひねる優。なんか違う、というのはやっぱり、さっきのセックスのことだろう。
「ねえ、気持ちよかったよ、流ちゃん。今日はよかったなあ、ほんと」
「なっ……!」
さらりと屈託なくほめる優に流は絶句し、優のとろけるような笑みに出会うと、あらぬ方を見ながら頭をかいた。
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