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ひゃあと言う悲鳴。
ドラマやアニメで聞く空を切り裂くような悲鳴とは違う。危険度の低そうな悲鳴が店内に聞こえた。
どんな声でも悲鳴は悲鳴である。
外は雨の為、暗い。それでも店内が闇になるには暗さは足りない。急に電気が消えた所で、目は直ぐに慣れる。慣れた目は直ぐに人の動きを捕らえ、そして人が逃げていくのが分かった。ドアの入口でカランコロンと音を立て、男は走り去って行った。
外の方が明るい筈なのだが、姿を追いかける事が出来ないのは、暗幕が男の逃げる方向に掛けられていた為であり、店内が闇になった事もソレが理由だろう。幾つかの窓はカーテンにより光が入らない様になっている為に生まれた暗闇。
全ての窓をふさぐことが出来なかった為に、皆の目に逃げていく人影が見えたに違いない。ボンヤリと光るパソコンの所為で暗闇に自分の顔が浮かび上がっている事に多少恥じらいを感じながらオレンジジュースをカラカラの喉に流し込んだ。
飲んだところで異変に気が着く。悲鳴とは無関係であろうオレンジジュースの薄さ。水でも入れて薄めたのではと首を傾げたくなる。
「さて、問題です。暗闇の中で聞こえた悲鳴、誰があげたでしょう」
探偵はニヤニヤと聞くのだった。
「それと、探偵っぽくなるように、自分の事は僕と呼んではどうかな。五百井涙君。この答えが分かったら、給料増やすよ」
一人称が自分と言うのは確かに変わっていると言われたことも在るが、今更変えろと探偵は軽く言う。
それも僕とは、幼さが際立つでは無いかと反論したい。働く前から仕事を辞めたくなるが、我慢しなければ。気味の悪い探偵だが、給料がもらえるのならば、今すぐには辞められない。住む家が無くなると益々仕事が決まらない事くらいは分かっている。
自分もそこまで馬鹿では無い。もとい僕もそこまで馬鹿では無い。
「今悲鳴を挙げた人ですか。逃げた人でなく、どころかどうして悲鳴を挙げたのかと言う問題では無いんですね」
カーテンはいつの間にか全て開き、傘をさす通行人や慌ただしく走る人の姿が見える。それは、そうだろう。この時間の雨は予想外だ、さっき逃げていった男も濡れているのだろう。
店内の客の足元を見ても、そこまで汚れた人間は居ない。雨の中、歩いたならばまだしも、走って逃げたとなれば泥は飛びそうだが、あのまま逃げていったのだろうか。逃げたフリをして、店に戻って来たと言う線は考えられないだろうか。
「どうかな。分かるかい。一応面接だからさ。君の推理を見てみたいなぁと思ったんだけど突然すぎたかな」
楽しそうに、パソコンを僕の方では無く、自分の方向ける。眩しい合格と言う文字の点滅がようやく視界から消え、集中力を妨げるものが消える。ひゃあと言う悲鳴は、女性の声色だった。絶対そうだと断言こそ出来ないが、被害者がわざと声を変える必要も無いだろう。店内に女性は六人。うち二人は停電の後に入って来たので容疑者からは消える。逃げた何者かと同じで何処かに逃げて、服装を変えて戻って来たと言う事も無いだろう。この数分であれ程ずぶ濡れにはならない。
傘と言うのは意外と高い、二人の様な学生ならば尚更である。
百円あれば買えるではないかとも言えるが、百円で買えるからこそ、百円ショップ以外では買いたくないという事も在るだろう。
その学生二人はこの辺りの進学校の男性二人に最悪びしょびしょだと文句を言っている。四人で遊ぶ約束をしていたので、駅から走って来たのだろう。
濡れてでも会いたかったのか、濡れたくないから急いだのか僕には解かりかねるが。となると、目の前で停電中もスマホゲームを光らせていたオフィスレディ、居眠りしてしまっているお婆さんも違うだろう。
尤も店内を見渡さなくても、おおよその見当は付いているのだ。推理を見たいと探偵は言ったが推理などしなくとも、推測できる。どころかあの怪しげな無意味な時間を考えれば予測すらも出来るだろう。不自然すぎるのだから。
「店員の、女の子ですよね。声がそっちから聞こえました」
声の聞こえた方向なんて、暗闇でも分かる。
否、暗闇だからこそ耳はいつもより特定しようと働いたと言う所だろう。
「それに、雷が落ちたのは偶然だとして、停電に関しては意図して電気を消しただけですよね。なんでか男性の店員さん、頭濡れていますし、シャツの色も黒系から白系に着替えた様ですし」
お揃いの服を着た状態の店員たちはチラチラとこちらの様子を伺っている。
「店を暗くしてほしいと言う話も、仲良さげに話していた時に頼んだんですかね。或いは事前に頼んでいた為、レジの横に立って、後から来るお客さんに、突然電機が消えるけど驚かないで下さいと伝言していたとなると、これ仕組んだのは南海雫伊助さんですか」
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