読めない手紙

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卒業してからは、あっという間だった。地元を離れて東京にでてきて、一人暮らしをはじめた。ホームシックになる暇さえなく、大学の入学式をむかえる。 彼からの返事は思っていたよりも早く来た。大学の入学式の日、耕太くんが私を探してきてくれた。 私は文系でキャンパスも遠いはずなのに、新入生も多くて探し出すのはかなり苦労しただろうに、息を切らして走ってきた耕太くんは 「これ、あの時の返事」 と封筒を渡してくれた。 「恥ずかしいから、家で開けてくれる?」 うなずいて、返事をする。 家に帰って封筒を開いた。引っ越してきたばかりの新居はまだ段ボールが山積みで、先にそちらを片付けなくてはいけないのに、耕太くんからの手紙を最初に開いた。封筒の中には小さなメモと2つに折られた白い紙が1枚。メモには 『これが僕の気持ちです』 とだけ、書いてあった。 白い紙を開く。 そこには。 「……なに、これ」 何も書かれていなかった。 ただ、白いだけの紙。 鉛筆の文字もインクの文字も書かれてはいなかった。 もらった瞬間、フラれたと思った。でも、耕太くんはふるとしたらこういったやり方はしないだろう。『気持ちです』と書かれている以上、この白い紙には何らかの秘密があるに違いない。 「よし…!」 私は部屋に積まれている段ボールを片付け始めた。いろいろ準備が必要だと思った。そのために、この部屋を住める場所にしなくては。 白い紙。これを見て最初に思ったのはあぶり出しだった。科学部の耕太くんが考えそうなことである。科学の力を使って、きっと文字を書いたのだ。コンロを設置して、火をつける。紙が燃えないように気を付けてかざしてみた。 …何もでなかった。 「…次だ」 他に白い紙に文字を書く方法と言ったら、ろうそくのロウや白いクレヨンで文字を書くことだ。絵の具を塗ればわかるのだが、ロウなどは書いてある後が目で見てわかる。紙を横から見てみたり、手で触ってみたが、何も書いてある様子はなかった。 「…まだだ」 少し日が傾いてきて薄暗くなった部屋に電気をつける。その光に透かしてみてみた。耕太くんなら科学の力を使って、文字が透ける紙だって作れるのかもしれないと思った。 「…だめだ…」 何も変わらなかった。パソコンを取り出してネットで調べる。「白い紙に文字を書く方法」と検索したが、さっき私が考えた方法以外に新しいものは見つからなかった。 「分からないよ…」 ため息を1つ。今度耕太くんに会ったら聞いてみようと思った。
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