読めない手紙

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「好きです、ずっと、1年のころから」 高校の卒業式当日、私は勇気を出して告白した。 周りには、意中の男の子に第2ボタンをもらいにいく女の子たちがちらほら。 それでも、私の想い人――耕太くんの周りには誰もいなくて、ライバルの不在にほっとしつつ、彼のよさがわからない周りにイライラもした。 「あのっ…バレバレだったのかもしれないけど、伝えておきたくて」 高校3年間、彼に会うためだけに、部員でもないのにも関わらず彼のいる科学部に通いつめた。 廊下の窓からこっそり中を覗いて、白衣を着てもくもくと実験する耕太くんの姿を見つめつづけた。 ストーカーと言われればそうなのかもしれない。 3年間で同じクラスになることはなかったけれど、移動教室の時に廊下ですれ違うときに「おはよう」と言えば「おはよう」と返してくれるし、科学部が終わって靴箱で会えば、少しなら会話もしてくれた。ストーカーと思われていても、普通に会話をしてくれる彼の優しさに甘えて、それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。 「……ありがとう」 耕太くんは十分な間をおいて、それだけ答えた。 「あのさ……」 「なに?」 どきどきしながら答える。怖くて彼の顔が見られない。 「同じ……大学だよね?」 「覚えててくれたの?」 ぱっと顔をあげて彼の顔を見ると、 「うちの学校からその大学行くのは、僕たちだけだからさ」 と、はにかんでくれた。 耕太くんの志望校が日本一学力の高い国立大学だと聞いたときは驚いた。私が彼に一目惚れしたのは科学部で白衣を着て実験する、その横顔だった。確かに彼が科学にかける情熱はすさまじかったし、数学だって得意なんだろうな、とは思っていたが、まさかそこまで目標が高いとは思っていなかった。地元の国立大学だって全国からみたら有名だし、そこに行く友達が多かったから、耕太くんもそうなのだろうと思っていた。だから、私も苦手な勉強を頑張って、地元の国立大学の合格率をBにまで上げたのだ。 耕太くんの志望校を聞いた日、私は今までの模試の結果を全て見直しあ。 地元の国立大学はB判定だったけど、耕太くんが行こうとしている大学の判定はDだった。担任の先生が「最後の夏が勝負だぞ」と言っていたことを思い出す。 そして私は、決意した。 高校3年生の夏休みすべてを勉強にかけた。 朝から夜まで、塾に通い、塾がない日は図書館に通い、ひたすら勉強した。 どうしても、耕太くんと同じ大学に行きたかった。不純すぎる動機だが、それでも彼の姿をそばで見たかった。 そんな努力の成果が出たのか、12月の模試ではB判定を出すことができた。そのままの勢いで、何とか受験に成功し、耕太くんと同じ大学に進学することができたのだ。まさか、知っていてくれていたなんて!! 「返事は、いつでもいいから!」 うれしいやら、恥ずかしいやらで、私は足早にその場をあとにしてしまった。
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