20年越しのラブレター

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「いえ、こんなにいただくわけには  参りません」 紬は、慌てて金を返そうとする。 「いえ、あなたにはそれだけの価値が  あります。  遠慮なく受け取ってください」 俺は現金を紬に握らせる。 しかし、次の瞬間、紬の表情が訝しげなものに変わった。 しまった。誤解されたかも。 「あ、いかがわしい事を考えてるわけでは  ありませんから、安心してください」 俺は慌てて補足する。 「実は、今日、ちょっとしたパーティが  ありまして…  女性を同伴しなければいけなくなったん  です。  ご迷惑だとは思いますが、あのドレスを着て  一緒に出席していただきたいのです」 さぁ、紬、どう出る? 「大変ありがたいお申し出ではありますが、  私には荷が重すぎます。  どなたか別の方をお探しになっては… ?」 紬は、やんわりと断ってきた。 「相手が私では、役不足ですか?」 俺は遜って尋ねる。 「いえ! とんでもない。  お客様のような素敵な男性のお相手  でしたら、私なんかより適任な方が  いらっしゃると思います」 素敵? これが社交辞令でなければいいのに。 「いえ、あなたがいいんです。  裁 紬(たち つむぎ)さん」 「え…? なんで私の名前… 」 突然名前を呼ばれて、紬は狼狽えた目で俺を見る。
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