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俺、中谷 尋輝が、紬と再会したのは、高校3年生の3月のことだった。
大学に合格した俺は、入学式用のスーツを仕立てるべく、父に薦められるままテーラー裁を訪れた。
俺たちがデザインや生地を選び、採寸しているところへ店主の娘が顔を出した。
「いらっしゃいませ。失礼します。
お父さん、勝手口の方に山内さんが
いらっしゃってるけど」
紬だ!
俺は一目見て分かった。
俺が小学生の頃、可愛がってた女の子。
確か四つ下だったはずだから、今、14歳。
中学2年生のはず。
あの頃、三つ編みのおさげだった髪は、相変わらずのロングヘアではあるが、サラサラストレートのポニーテールになっていた。
あの頃も可愛かったけど、今もかわいいなぁ。
って、間もなく大学生って奴が中学生をそんな目で見るのは犯罪だよな。
そんなことを思いながらも、俺は、食い入るように紬を見ていた。
「どうせまた釣りの話だろ。
今、接客中だから、また連絡するって
言っといてくれるか?」
「うん、分かった。
失礼しました」
紬は、俺たちの方をちらりと見て、ぺこりと頭を下げて奥へと戻っていく。
紬は、俺のことなんて覚えてないんだろうな。
俺は少し寂しく思いながら、奥へと続くモスグリーンの大きな暖簾を眺めていた。
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